新潟大で講義を受け持ったトキエアの長谷川政樹社長(左端)。事業モデルを紹介し、乗客の獲得に向けて学生と意見交換した=2023年12月、新潟市西区
新潟大で講義を受け持ったトキエアの長谷川政樹社長(左端)。事業モデルを紹介し、乗客の獲得に向けて学生と意見交換した=2023年12月、新潟市西区

 新潟空港を拠点とする格安航空会社(LCC)経営コストを減らし、大手航空会社と比べて運賃を低く設定した航空会社のこと。LCCはローコストキャリアーの頭文字。短い距離の直行便をタイトなスケジュールで運航し、機体の稼働率を高めるなどのコスト低減策を取る傾向がある。機内のサービスは簡素化し、飲食や手荷物の預け入れは有料なのが一般的。のトキエア(新潟市東区)が1月31日、丘珠(おかだま・札幌市)線を就航した。2020年設立のベンチャー航空は、就航延期を繰り返しながら、ようやくスタートラインに立った。限られた人や資金の中で、地域同士の「架け橋」として、観光の活性化や新たなビジネス創出につなげられるか。トキエアの狙いと課題を追う。(3回続きの1)

 「皆さんの意見を経営に盛り込んでいきたい」。2023年12月、新潟大学の講義室で、トキエアの長谷川政樹社長=新潟県加茂市出身=が呼びかけた。講義には、250人の学生が参加した。乗客増の取り組みを学生から募ると、「自宅から事前に荷物を送って手ぶらで搭乗できるサービス」など多くのアイデアが飛び出た。

 トキエアの狙いは、低価格の運賃で若者らの新たな航空需要を掘り起こすことだ。25歳まで限定のプラン「トキユニ」を戦略として打ち出す。学生からは「(丘珠線最安の)6900円はめっちゃ安い」「観光で使いたい」と、好意的に受け止められた。

 学生に参加意識を持ってもらいながら、使いやすく身近な航空会社を目指しており、競合を勝ち抜くために価格だけでない魅力づくりを模索する。

▽「ベンチャーならでは」の組織事情

トキエア就航の初日、記念写真を撮影するトキエアの長谷川政樹社長(中央)ら=1月31日、新潟空港

 新潟県の経済界は、地域間の継続的な交流に期待する。新潟商工会議所の福田勝之会頭は「街に人が来てにぎやかになることで、地元の仕事も増えて活性化につながる」とし、支援の輪を広げた。トキエアは県内外約150の企業、個人の出資と県、金融機関の融資により就航資金をかき集めた。

 日本航空勤務を経て、LCCジェットスター・ジャパン(千葉県)の発足に携わった長谷川社長の手腕も期待された。

 人脈を生かしてブラジル航空機大手エンブラエル出身者をトキエアに迎え、海外企業との交渉を一任。アイルランドのリース会社を通した航空機の調達や、台湾の整備会社との委託契約などで仲介を挟まず直接交渉し、低コスト化を図った。

トキエアの機体

 しかし、ベンチャー企業ならではの苦しい組織事情もあった。創業者の長谷川社長でなければ判断や説明ができない部分が多く、出資集めや認知向上の講演会などをこなしながら、航空当局や業務委託先との調整の場も前面に立った。

 就航準備中、ある株主は「社長じゃないと話が進まない。でも多忙でつかまらない」と不満を漏らした。多方面から人を集めた未熟な組織体制の下、就航へのステップにずれが生じていった。

▽「問題は飛ばしてから出てくる」

 航空業界は、燃油価格の高騰や感染症の流行などの影響で業績に波が出やすく、リスクに耐えられる財務体質が求められる。

 静岡空港などを拠点に数々の地域路線を開いてきた先駆者、フジドリームエアラインズ(FDA、静岡市)の楠瀬俊一社長は「問題は飛ばしてからの方が出てくる。事前に予測できなかったことが起こる」と語る。FDAは総合物流の鈴与(静岡市)の完全子会社で、売上高約5千億円を誇るグループの安定した財務基盤が後ろ盾になっている。

 桜美林大航空・マネジメント学群の戸崎肇教授は「リスク対応の観点では、小口出資よりも(大口の)しっかりした土台があった方がいい」と指摘する。トキエアはFDAと対照的で、約150の株主が支える構図だ。苦境に立った際、どこまで追加支援が得られるかは不透明だ。

 一方で、トキエアの株主構成には強みもある。「株主が多いことは幅広いファンの形成につながる」と戸崎教授。株主らステークホルダー(利害関係者)を起点にファンの裾野を広げられる可能性を秘めており、コアな顧客層を拡大すれば収益性の向上につながる。

 1月31日の就航セレモニーで、長谷川社長は「飛行機を身近に利用してほしい。県民、企業とともに新潟を盛り上げることが目標になる」と意気込んだ。

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