「居なりすん」参加者にいなりずしを配る佐々木茉歩さん(中央)=長岡市渡里町
「居なりすん」参加者にいなりずしを配る佐々木茉歩さん(中央)=長岡市渡里町

 いなりずしをつまみながら、あなたのこと話しませんか? 新潟県長岡市の中心部、大通りから外れたビルの一室に不思議な場所が生まれている。飲食店ではない。学生や社会人が夜な夜な集まり、テーマ無しで話し合う。それはいったい…。たくさんの疑問を抱えて訪ねた先は、温かな空気で満ちていた。(長岡支社・石井英明)

 1月下旬のある日、午後6時前。雪が落ちる長岡市渡里町の路地裏で「居(い)なりすん」の看板を見つけた。手書きで「いなりずし屋ではありません」と注意書きがある。

 看板を横目に、古いマンションといった雰囲気のビルの階段を上がると、201号室のドアに1枚の紙が張られていた。

 「気合い入らねえな。そうだ、話しに行こう」

「居なりすん」の玄関ドア。チラシは張られているが、入るのに少し勇気がいる感じだ

 太字のメッセージに、いなりずしの写真。場所は間違いなさそうだが、それ以上の情報はない。ここなのか…? 数秒、扉を開けるのをためらう。

 「ようこそ〜」。拍子抜けするほど普通に、温かく迎えてくれたのは、長岡市の地域おこし協力隊の隊員で長岡造形大学大学院の学生でもある佐々木茉歩(まほ)さん(24)。「居なりすん」の企画者で「店主」を名乗る。

◆イメージは町場のすし屋、意外性を「話のネタに」

 居なりすんは、いなりずしの「いな」と英語の「リッスン」(傾聴)を合わせたもの。日常生活でふと誰かに話したいと思った人が、気軽に来られるコミュニティーカフェという位置づけだ。

 あくまで話をすることが目的のため、お酒は出さない。メニューはなく、予約も取らない。

 いなりずしを選んだのは、片手でつまみながら会話でき、長岡の食材を使って手作りでき、おにぎりより意外性があるから。イメージしたのはおしゃれなカフェではなく、町場のすし屋。いなりずし自体が話のネタになるとも考えた。

「居なりすん」で出されたいなりずし。佐々木さんが毎回手作りする

 新年1回目の開催だった...

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