口頭伝達が基本の航空管制で人的ミスは避け難く、大惨事につながるリスクがあることが改めて浮き彫りになった。

 29日には韓国でも航空機事故が起き、多数の犠牲者が出ている。安全運航に向けて航空関係者は細心の注意を払ってもらいたい。

 羽田空港で1月2日に日航機と海上保安庁機が衝突し、海保機の乗員5人が死亡した事故で、運輸安全委員会が、原因調査の経過報告を公表した。

 海保機から回収したボイスレコーダー(音声記録装置)の内容が初めて明かされた。滑走路手前まで走行せよとの管制官の指示を副機長は正しく復唱したが、機長は無許可のまま滑走路に進入した。

 機長は滑走路に入るのを許可されたと記憶しており、能登半島地震の支援物資輸送で新潟航空基地に向かう任務のため離陸が優先されたと思ったと説明していた。

 機長による思い込みとの見方が強い。機長の行動に副機長が疑問を示した形跡もなく、2人とも指示を誤認した可能性がある。

 航空管制は高度な技術に支えられているが、航空機への指示は口頭が基本だ。人的ミスは過去にも別の空港で起きている。

 操縦士向けの安全ガイドは「人間は指示を正しく確認してもちぐはぐな行動を取ることがある」と指摘している。

 航空機の実際の動きを口に出して確認し合う大切さを、航空関係者は肝に銘じてほしい。

 事故後に海保は、離着陸などの際にパイロット以外は会話を控えるなどの新ルールを制定した。

 再発防止に向け、安全の基本動作を徹底しなければならない。

 一方、管制官は、海保機の進入に気付かなかった。卓上画面に進入を注意喚起する表示が出たが、普段からこの画面を「当てにしづらい」と感じており、事故時も表示を認識していなかった。

 人的ミスを防ぐ装置も有効に使われなければ意味がない。

 管制塔外で空港を監視する同僚は滑走路上に機体がいるように見えたため状況を尋ねたが、担当管制官の注意喚起にならなかった。

 日航機も海保機を衝突直前まで認識していなかった。経過報告では、日没後で海保機と滑走路の灯火がいずれも白色だったことが関与した可能性があるとした。改善に知恵を絞りたい。

 報告は、日航機乗員の適切な指示が被害を防いだと指摘した。全員が避難できたのは奇跡的で、大惨事となる可能性もあった。

 韓国で29日に起きた済州航空機の事故は、胴体着陸を試みたが滑走路を離脱して壁に衝突し炎上した。乗員乗客181人の大半が死亡したとみられる。

 離着陸時の事故が多い。操縦士が集中できる環境を整えるとともに、事故時でも命を守れるように航空各社は訓練を重ねてほしい。