異色のコラボ醸す空気
大学を出て帰郷する私に、同じクラスの女性から贈られた本があった。鴨居玲の評伝だった。実家で初めから終わりまで頁を繰ってはみたものの、文字に目を落とす気にはなれず、書棚に戻すという行為を繰り返した。ひと月が過ぎ、いよいよ返事を書かねばと、苦し紛れの短文を記し投函(とうかん)したような気がする。その本を読むことは、私に対する彼女の想いまで理解することだから、それができなかったのだ。その後、引っ越しを何度かしたが、書棚のどこかにその背表紙があることは知っていた。あれから20年も過ぎただろうか、蔵書をまとめて処分することにし、その一冊もそれらとともに束ねてしまった。
幸いというべきか、美術館で働く身...
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