新手法の導入で誰もが入手しやすい米価になることが期待される。ただ、課題の多い手法であり、あくまで緊急避難的な措置としなければならない。
コメの価格と供給の安定を図るため、中長期的な視点で農政改革を進める必要がある。
小泉進次郎農相は、6月初旬に政府備蓄米が5キロ当たり2千円で店頭に並ぶようにするとし、新たな放出の手法を発表した。
従来の競争入札から随意契約に切り替え、年間1万トン以上を取り扱う大手のスーパーなどを国が選ぶ。競争入札に比べて半値程度で直接売り渡すことで店頭価格を抑え、流通も加速させる。
国は3月に放出を始め、3回の入札で計約31万トンが落札されたが、4月27日時点で店頭に届いたのは7%に過ぎない。今月12~18日にスーパーで販売されたコメ5キロの平均価格は4285円と過去最高値を更新した。
放出の効果はみられず、新たな手だてが必要だったのは確かだ。
だが、新手法は成果を急いだ危うさが否めない。
随意契約は業者選定の過程が不透明になりやすい。さらに、契約の対象を大手に限定したため、地方、中小のスーパーや米穀店に備蓄米が行き渡らない恐れもある。
大手の店舗が少ない地方に住む消費者が、安価なコメを買えないという事態も想定される。
国の施策で地域差が生じることは避けなくてはならない。
新たな放出で、コメ全体の価格が石破茂首相の目指す5キロ当たり3千円台に下がるかも不透明だ。
放出するのは2022年、21年産の古いコメで、既に落札された量と同程度の30万トンを予定する。小泉農相は「需要があれば無制限に出す」とするが、売り渡し後の備蓄は30万トンに減る。
大凶作や災害に備えるという備蓄米本来の目的もあり、放出頼みの価格抑制策には限界があると言わざるを得ない。
コメの価格高騰の背景には、生産を減らしてきた長年の農政がある。国は生産調整(減反)をやめた後も、補助金でコメからの転作を促すなどしてきた。コメの需要と生産量は拮抗(きっこう)し、少しの波乱要素で価格が上がりやすい。
今後の品薄や価格高騰を防ぐには、十分なコメを市場に送り出す農政へと転換する必要がある。
25年産の主食用米の生産量は719万トンと、前年実績比で40万トン増加する見込みとなった。本県など34道県が作付面積を増やす。
コメの価格高騰を受けて農家の生産意欲が高まったためとみられるが、放出でコメが市場に出過ぎれば、今後の価格が不必要に下がるなど影響が懸念される。
国は場当たり的に対処するだけでなく、消費者、生産者双方にとっての適正価格が実現する農政へ歩みを進めてもらいたい。