こんな書き出しの本がある。「地球の上に、正確にはいくつの国家があり、どれほどの長さの国境線が引かれているのか知りませんが、現在のところ、それが地球を住み難くしているのはたしかでしょう」

▼戦火が途切れぬ昨今に通じるが、発行は半世紀以上前の1967年だ。そしてこう続く。「この不便な国境の壁をこえているものが、地球の上にふたつあるといわれています。郵便と赤十字とがそうだというのです」

▼世界をつなぐ郵便に携わる者としての誇りがうかがえる。「赤い自転車物語」という本で、書名が示すように郵便局に勤める人たちが書いた。赤色は郵便と切り離せないらしく、明治期に郵便物を載せて引いた荷車もすでに赤かったらしい

▼「赤い自転車物語」には嘆きも多い。郵便局は「あるのが当然で、手紙が遅れたり、着かなかったりしたときだけ思い出される」のだという。雨風に負けずに働かねばならないのだから、ぼやきも出るだろう

▼誇りがあり、悲哀もあり、日本の郵便事業は150年以上続いてきた。だが危機だ。酒気帯び確認の点呼が不適切だったとして日本郵便に国から処分が下る。保有するトラックやバン約2500台の売却を検討する事態になった

▼郵便の赤色は、赤い動脈を連想させる。それは山あい深くであれ、雪の日であれ、人と人を結ぶ力強い赤だ。今後も頼もしい配達網を維持していけるだろうか。信頼を再び得るには、険しい道のりが待っていそうだ。誇りを取り戻す日を待つ。

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