先月発表の基準地価では、都市部の堅調な上昇がみられた。バブル華やかなりしころの本の一節を思い出す。「東京の地価の高いのは当然だと思う」。作家の曽野綾子さんが「都会の幸福」で同人の上坂(かみさか)冬子(ふゆこ)さんの言葉を紹介した
▼その理由について、上坂さんは独自の見解を示している。いわく「魂の自由代が含まれているから」。東京に生まれ、地方で育った上坂さんならではのユニークな解釈ではないだろうか
▼多様な価値観が混在する都会では、各自の振る舞いは周囲の迷惑にならぬ限り個人の裁量に委ねられることが多い。曽野さんの表現を借りれば上坂さんは「個人を温かく埋没させる」街を選んだ
▼地方に生きる現代の女性たちもまた、魂の自由を求めている。2025年版の男女共同参画白書に目を通して、そんな思いを強くした。若い世代が進学や就職などで都会に出た後、女性が戻らない傾向が強い
▼希望する進学・就職先が少ない、親や周囲の干渉から逃れたい…。出身地域を離れた理由を東京圏に住む女性に聞くとこんな答えが目立った。白書は、性別による固定的な役割分担意識が地方に根強く残っていることも流出の一因と指摘する
▼都会には生きづらい部分もある。地方には地方の良さもある。それでも東京への一極集中が止まらず、本県を含む地方の人口減少が続く。この現実と白書の指摘をどう受け止めるのか。女も男も、地元に住みながら魂の自由を享受できる。そんな街づくりを考える時期に来ている。