自らの手は汚さず、実行役を募って、人を傷つけたり、財産を奪ったりした。国民に大きな不安を与えた新手の犯罪を防がなければならない。
フィリピンを拠点に「ルフィ」を名乗り、広域強盗を指示したとされる特殊詐欺グループの幹部で、強盗致傷ほう助罪などに問われた小島智信被告に、東京地裁は懲役20年の判決を言い渡した。
一連の事件で起訴された幹部4人の中では初めての判決だ。それによると、小島被告は2022年に山口県などで起きた強盗致傷事件や強盗未遂事件で、別の幹部に実行役を紹介した。
19年には、ルフィを名乗ったとされる幹部と共謀し、金融庁職員などに成り済まし、うそをついて盗み取ったキャッシュカードで計約1500万円を不正に引き出すなどした。
裁判長は、強盗を連続して実行するため、小島被告の役割は非常に重要だったと認めた。被害者が出ただけではなく「多くの犯罪者を生み続けた」と非難した。
一連の事件について「実行役を使い捨てにしながら、一般市民の安全を脅かす新しいタイプの重大犯罪だ」とし、厳しい処罰が必要だと述べた。
同様の事件は決して繰り返されてはならない。地裁が小島被告に対し、重い刑が相当と判断したのは理解できる。
この事件は、警察当局が匿名・流動型犯罪グループ(匿流)の取り締まりを強化していくきっかけとなった。
小島被告の説明などによると、特殊詐欺グループは17年にタイで組織され、次第に強盗事件にも手を染めるようになった。小島被告は、フィリピンに拠点が移った18年に参加した。
小島被告らはツイッター(現X)を使って、日本で闇バイトを募った。そして、匿名性が高い通信アプリを用い、実行役に強盗事件を指示していた。高額の報酬に釣られた実行役は、日本各地で事件を起こした。
巧妙化する犯罪に対応した捜査手法の確立が急がれる。
また、4人の関与が疑われる特殊詐欺の被害額は、60億円以上に上るとみられる。
判決によると、犯行は「会社のようにシステム化された組織で細分化された役割を分担し、ビジネスとして行われた」という。
小島被告は特殊詐欺で、電話でだます「かけ子」や、現金を受け取る「受け子」など役割を分けることによって、実行役の罪の意識を希薄にしたとされる。
狡猾(こうかつ)な手口によって悪質な犯行を繰り返していたことに、憤りを禁じ得ない。
ほかの幹部3人の公判期日は、まだ決まっていない。裁判によって事件の全容を早急に解明してもらいたい。