「なぜ解決しようとしないのか」。半世紀以上続く新潟水俣病問題で、被害者のほか大学生や市民らも、被害者救済に対する国の姿勢に疑問を感じている。これまでの解決策は全被害者救済に至らず、今でも裁判は続く。今回の衆院選で水俣病問題が触れられることはほとんどない。「国民を守るのが政治の原点のはず」。政治の力で解決を願う声が広がっている。
水俣病の歴史は訴訟と救済を繰り返している=表参照=。国は認定制度を設けているが、基準が厳しく、認定されなかった人たちが救済を求めて裁判を起こしてきた。
政治が解決に乗り出したこともあった。1996年は自民、社会、新党さきがけの3党連立政権、2011年は民主党政権で、係争中の訴訟が和解し、「政治決着」と呼ばれた。
同年、自民、公明、民主各党の協議でまとまった水俣病特別措置法が施行されたが、救済申請は約2年で締め切られた。
13年に最高裁が国の基準より広く認定できるとの判決を出しても、国は基準を見直していない。新たな救済策も示されず、現在も全国で訴訟が続いている。
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今回の衆院選に合わせて、被害者や支援者でつくる新潟水俣病共闘会議は9月、県内の候補予定者17人に救済策などに関する公開質問状を送った。今月21日までに回答を寄せたのは9人だけだった。
回答した人は新たな救済策に前向きだが、阿賀野患者会の山﨑昭正会長(79)は「半数から回答がなく、解決する気持ちが全く感じられない」と憤る。
新潟市東区の女性(81)は手足がしびれ、足がつって激痛が走る度に「こんな体にした企業や、問題を解決しようとしない国を恨んでしまう」と吐露する。以前、知人が水俣病被害者を差別する発言をしていて、「今でも水俣病だと知られると何を言われるか怖くて仕方ない」と明かす。
阿賀町の皆川年江さん(78)も手足のしびれなど水俣病特有の症状に苦しむ。国に患者認定されず5次訴訟に参加、約8年が過ぎた今も続いている。
皆川さんは「国に期待はない。せめて裁判で患者と認められることが『楽になる薬』。人を憎んだまま人生を終わりたくない」。
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県立大4年の男子学生(21)=新潟市東区=は、水俣病を題材にした映画の上映会を企画している市民有志の会に参加した縁で、皆川さんら被害者の苦しみを聞いた。
大学の授業で水俣病を学び、国が経済を優先して起きた被害だと感じてきた。「国や政治はどう被害者を守っていくのか、真剣に考えるべきだ」と訴える。
県立大2年の女子学生(21)=同=は秋田県出身で、入学後に水俣病問題が解決していないと知り「衝撃的だった」。未解決なのは国が問題を表面的にしか理解していない表れだと思う。「政治家は恵まれた環境にいて、見ている景色が違う。もっと苦しんでいる人に寄り添う視点があっていい」と求めた。
被害者の暮らしを撮り続けている写真家の小原王明さん(73)=同=は政治への期待を込めて言う。「国民を救うのが政治の原点。与党の決断一つで解決できるはずだ」