政治の力への期待を込めて、新潟県内各地域の実情や住民の思いを伝える衆院選連載「知ってほしい」。今回のテーマは「インバウンド(訪日観光客)」です。

 妙高山の頂には白い雪の便りが届き始めた。妙高市の赤倉温泉が最もにぎわう季節が近づく。しかし、温泉街には昨年から続く不安と静けさが漂っている。近年、赤倉の冬季観光を支えてきたのはオーストラリア人を中心としたインバウンド。それが新型コロナウイルス禍の出入国規制などで途絶えているからだ。

 「外国人ばかりで日本じゃないみたい。それが冬の光景になっていたが…」。赤倉の旅館「お宿ふるや」の社長中嶋正文さん(56)は、ウイルス禍前の温泉街を思い返して語る。国内のインバウンド市場は壊滅状態。今年の1月と2月、本県の外国人延べ宿泊者数は計約4千人泊で、感染拡大前の前年同月と比べてマイナス97・9%、同97・1%とほぼなくなった(宿泊旅行統計調査・速報)。目抜き通りから外国人の姿が消えた温泉街が、中嶋さんには寂しく映った。

 妙高のスキー観光は1990年ごろのバブル期をピークに低迷。関西方面から訪れていた多くの客も減っていった。そんな観光地にとってインバウンドは活路の一つだった。民間主導の誘客活動などが実り、外国人客は2000年代後半から増え始め、妙高市の外国人延べ宿泊者数は13年に約2万人泊、20年には約7万人泊と増えていく。

 「この波に乗らなければ未来はない」。お宿ふるやは外国人対応に率先して取り組んできた一軒だ。冬季限定で外国人スタッフや語学ができる学生を雇い、館内の案内表示に英語を加え、菜食主義者らへの食事なども配慮する。ウイルス禍以前の冬は外国人客が9割を占めた。12月下旬から2月まで予約で埋まり、日本人客を受け入れる余裕がないほど。それが「ゼロになった」と中嶋さんは嘆く。

 昨冬は国内客の誘客に努めたが、1週間など長期滞在が多い外国人客に対し、休日に集中する日本人客では平日を補えない。加えて、客室13室のうち3部屋程度はウイルス感染に備えた隔離用の部屋として常に空けているため、客室の稼働率も落ち、昨冬の売り上げは例年の約5割に下がった。

 ウイルスの感染拡大から2度目の冬が来る。国内感染者が減少し、出入国制限を緩和する他国の動きもある中で、中嶋さんは政府の動きに注目する。「インバウンドが動かなければ地域経済は動かない。入国規制の早期緩和に取り組んでほしい」。ただ、制限が解除されたとしてもスタッフの確保など受け入れ体制をすぐに整えるのは難しい。世界的な感染状況にも左右され、インバウンドが以前の規模に戻るには数年かかるという見方もある。

 「それまで耐え忍ぶしかないのか。何とか資金繰りをして体力がいつまで持つか」。政府に求めるのは、即効的な観光支援策や経済対策だけではない。「インバウンドの再開に向けた道筋を示してほしい」と、強く願っている。

(上越支社・栗原淳司)

◎資金繰りも支援して

中嶋正文さんの話 インバウンドの問題に目を向け、入国制限の早期緩和に取り組んでほしい。外国から入国後の隔離期間を赤倉などの滞在先で過ごす方法も検討できないか。政府の観光支援事業「Go To トラベル」を再開するのは当然のことだ。資金繰りなどへの支援策も求めたい。