長期にわたる海洋放出が始まった。風評被害を生じさせないためにも、安全性の確保を第一に取り組む必要がある。
漁業者らの反対を押し切ったからには、最終目標である廃炉の動きを加速させねばならない。道筋をしっかり示してほしい。
東京電力は24日、福島第1原発の処理水を海へ放出した。
放射性物質で汚染された水を多核種除去設備(ALPS)で浄化し、希釈して海底トンネルから1キロ先の沖合へ流す。
初回は約7800トンの処理水を17日程度で放出する。初日は処理水約1トンを約1200トンの海水で薄めて流した。
ALPSで除去できない放射性物質トリチウムが注視される。
トリチウムを含む水は他の原発も希釈して海に流しており、放出計画には国際原子力機関(IAEA)が「国際的な安全基準に合致する」とした。しかし中国などは危険だと宣伝し反発している。
東電は初日に放出した水のトリチウム濃度は1リットル当たり最大63ベクレルで、放出基準の1500ベクレル未満を大きく下回ったとした。
放出計画は放射性物質のモニタリング(監視)を続け、異常があれば緊急遮断弁を作動させて処理水放出を止めるとする。
IAEAなども安全性評価を継続し監視データを公開する。
科学的データは安全を判断する手がかりになる。風評を払拭する根拠にもなるだろう。
東電や関係機関は厳密に監視し、積極的に情報発信してほしい。問題があれば速やかに対策し、状況によっては放出計画を撤回することも選択肢とするべきだ。
処理水は現在約134万トンに上る。本年度は計約3万1200トンを流すものの、敷地内に林立する保管タンク約千基のうち、減るのは約10基分にとどまる。
溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やす注水などで日々、汚染水が生じるためだ。放出がいつ終わるかは見通せない。
原子炉建屋に地下水を流入させないなど、汚染水を増やさない対策が重要になる。
肝心の廃炉も一筋縄ではいかない。最難関はデブリの取り出しで、総量は1~3号機で約880トンに上る。10月以降に2号機で作業を始めるが、採取量は数グラムだ。
デブリがどこにどの程度存在するかも分かっていない。号機ごとに状況が異なり、取り出し方法や機材の検討も求められる。
原発の放射性廃棄物を巡る問題と同様に、デブリの最終的な処分方法が決まっていないことが、廃炉の先行きに影を落とす。
簡単に解決できる問題ではないが、廃炉完了が遅れ、福島の復興に水を差すことは避けたい。
被災地の不安を払拭するために、東電と政府は課題を着実に解消していかなくてはならない。