体を傷つけずに、望んだ性で生きる道が開かれた。自認する性が尊重され、不利益や不自由を被る人がないよう法制度を変えていかねばならない。
心と体の性が一致しない性同一性障害を巡り、当事者が戸籍上の性別を変更する場合に生殖能力をなくす手術を事実上求める性同一性障害特例法の規定(生殖能力要件)が争われた家事審判で、最高裁大法廷は規定を違憲、無効とする決定を出した。
医療の進歩で現在では手術の必要がない人にも、手術をするか、性別変更を断念するかの「過酷な二者択一を迫る」と指摘した。
憲法が保障する「意思に反して身体への侵襲を受けない自由」への制約は重大だと判断した。
裁判官15人全員一致による決定だ。司法の結論を国会、政府は重く受け止めねばならない。
2004年施行の特例法は、性別変更の要件として卵巣や精巣などの生殖機能がないことなどを挙げる。このため性別を変えるには高額な費用をかけ、健康な臓器を除去する必要があった。
最高裁は今回、手術を受けない当事者の親子関係に問題が生じることは極めてまれだとした。
法施行後に性別変更した人は1万人を超え、性同一性障害への理解も広がりつつあると指摘した。
「社会の混乱や急激な変化を避ける」といった目的で設けた制約の合理性は低くなったと解釈するのが自然だろう。
識者の中には、日本の手術要件などは世界の「周回遅れ」との見方がある。世界保健機関(WHO)は14年に「不本意な断種の廃絶を求める」との声明を発表、海外では撤廃が進んだ。
自認する性への変更にどこまで厳格な要件が必要なのか。人権侵害を避け、自己決定や尊厳を尊重する仕組みが求められる。
決定はもう一つの手術要件である外観要件について、高裁に差し戻して再審理を求めた。
性別変更後の性器部分に似た外観を持たなければ性別変更できない制約で、男性から女性への変更だと、ほぼ手術が必要とされる。
外観要件をなくすことには、銭湯やトイレ利用を念頭に一部で反対や懸念が根強い。
ただ、裁判官3人は外観要件も違憲と判断、「公衆浴場の風紀は事業者によって維持されており、混乱が生じることは極めてまれだ」などと反対意見を付けた。
ある当事者は職場で指定のトイレ、公共施設で男女共用トイレなどを利用し、銭湯には行かず、自分でルールを決めているという。
性的多数者は少数者の実情を知らず、無意識に偏見を抱いていることが少なくない。法改正には混乱や曲折も予想される。
性同一性障害の人がどう思い、どう生活しているか、社会全体で理解を広げたい。













