災害が起こるたびに課題を突きつけられる。原発で重大事故が起きた際の避難計画だ。被災の実態を見るにつけ、従来の計画の不備や盲点があらわになる
▼能登半島地震では、多くの家屋が倒壊するなどして安全に過ごせなくなった。しかし現在の指針は、原発から半径5~30キロ圏の住民は被ばくを避けるため、自宅などにとどまる屋内退避を原則としている
▼家が倒壊すれば屋内退避などできない。倒壊を免れても、余震が続けば室内にとどまるのはリスクを伴う。大地震と原発事故が重なれば、長期の屋内退避は現実的ではないことを見せつけられた
▼今回の地震では多数の道路が寸断された。2022年12月には、大雪によって柏崎市や長岡市などで車両の大規模な立ち往生が起きた。いざ逃げようとしても避難経路が機能しない恐れが如実になった。そのほか、津波や洪水なども避難を阻害する要因になる
▼何か事が起こるたび、自然は警句を発する。困難な課題が次々に浮かび上がるが、現実を直視して自然からのメッセージに謙虚な姿勢で耳を傾けられるかどうか。人間の「聞く力」が試されている
▼英文学研究者の小川公代・上智大教授が本紙への寄稿で、パレスチナ人弁護士のラジ・スラーニさんに触れていた。この国際人権活動家は、平和は武力を用いる国家ではなく人間同士の対話がもたらすと訴えている。小川さんは今こそ「聞く力」が育まれるべきだと強調していた。自然が発する警句や他者の声に耳をそばだてたい。