モノへの執着心を振り払う「断捨離」が、商標登録された言葉だったと最近知った。2009年に「新・片づけ術 断捨離」を著したやましたひでこさんが提唱し、広まった。シンプルな生活の追求は時折ブームになる。必要最小限の持ち物で暮らすミニマリストも度々話題になった

▼その対極にいた人と言っていいかもしれない。訃報が先日届いた縄文研究の第一人者である長岡市出身の小林達雄さんだ。冥福を祈りつつ、郷里で昨年開かれた所蔵品の企画展を思い起こす

▼展示会場に小林さんの印象深い言葉があった。人は人間関係だけじゃなく、さまざまなモノに囲まれて生きている。その中から興味のあるモノを選び、自分を確認していくような生きざまがある-。意訳すればそうなる

▼昔の民具など後世に残したいと思ったモノは、可能な限り入手したという。収集魔だった。最たるものが本だ。学生時代から食費を削ってでも本を買った。探究心の赴くまま求め、手元に置いて大切にした

▼「僕がいなくなっても、可能性を秘めた知的財産として世の役に立つかもしれない」。そんな思いから、書籍や写真、図面、民芸品など段ボール箱1500個分、約10万点を長岡市に寄贈していた

▼研究への情熱を宿す品々は、不世出の考古学者が形作られた過程、思考の成り立ちをたどる一級の資料になり得る。市は目録化を進めるが、終了はめどすら立たない。意義深いが大変な作業である。モノと人の距離を一般化して語るのは難しい。

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