「大学の教授より小学校の先生が大事だ。白紙の子どもを教えるんだからな」。田中角栄元首相はこう言って、幼い子どもに関わる教諭の処遇を改善する必要性を説いた。本社編「入門 田中角栄」が紹介している

▼秘書だった早坂茂三さんの回想録によると、1972年の自民党総裁選に出馬する際に発表した「十大基本政策」では「人間愛と使命感にあふれた教師を確保するため、義務教育教員の給与を大幅に引き上げ…」と訴えた。実際に田中政権は教員の処遇改善に道を開いた

▼時は流れ、教員を取り巻く環境は大きく変わった。授業や部活動、保護者らへの対応など求められる作業量が格段に増え、長時間労働が問題視されるようになった。忙しすぎる業務環境は、なり手不足を引き起こした

▼一般企業のように残業代も出ず「定額働かせ放題」と批判される。こうした状況を改善しようと、中教審の特別部会は提言をまとめた。残業代の代わりに上乗せする「教職調整額」の拡大や、11時間を目安とする「勤務間インターバル」の導入などが柱だ

▼ただ、効果は限定的という見方もある。処遇改善には財源の壁が立ちふさがり、働き方改革を抜本的に進めるには人員増が必要になる。一筋縄ではいかないようだ

▼早坂氏によると、田中元首相は「教育に政治は金を惜しむべきじゃない」とハッパをかけた。とはいえ、当時と今とでは社会の状況も国の懐事情も違う。「ならばどうするっ?」。あのダミ声が聞こえたような気がした。

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