Liisa「記憶のラビリンス」=新潟県十日町市の旧中条小学校枯木又分校

 新潟県十日町市と津南町で、11月10日まで「大地の芸術祭」が開かれています。2000年から3年に1度開催され、今回は9回目。広く美しい中山間地に、国内外の作家による311作品(うち新作85作品)が点在します。今回は、十日町市の下条・中条地区の作品を車で訪ねました。

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Liisa「記憶のラビリンス」=枯木又分校

 十日町市の東端にある、旧中条小学校枯木又分校。周辺には棚田が広がります。児童数の減少で2007年、最後の卒業生1人を送り出し、126年の歴史に幕を閉じました。眠っていた分校が目を覚ましたのは2009年。第4回「大地の芸術祭」で、京都精華大(京都市)のグループが分校を舞台に作品を発表、多くの来場者でにぎわいました。以来、京都精華大有志らは、「枯木又プロジェクト」として分校で作品発表を続けています。

枯木又分校。グラウンドには2009年の「大地の芸術祭」で作られた円形の田んぼ。これも作品だ(内田晴之「大地の記憶」)=2012年、新潟県十日町市
吉野央子「悠々自適」=枯木又分校

 今回も2階建ての木造校舎は、新作が満載です。
 校舎前の円形の水田も作品。敷地内にある直売所の倉庫の屋根には、巨大なかかしが両手を広げ集落を見守ります。

金沢寿美「新聞紙のドローイング」=枯木又分校

 校舎に入ると、1階の体育館は大量の新聞紙を黒く塗って貼り合わせた〝暗幕〟に覆われています。新聞の〝暗幕〟は、ところどころ文字や写真が塗り残され夜空の星のよう。降り注ぐ言葉の銀河の中で、何ともいえない浮遊感を味わえます。

Liisa「記憶のラビリンス」=枯木又分校

 2階は全教室を使った、日中英伊のルーツを持つLiisaさんによるインスタレーション「記憶のラビリンス」。天井や壁や床、所構わず自由に落書きした線路は、教室に立てかけた絵の中へも伸び、異次元の教室につながります。絵の中の教室には、森やサーカスのようなテントが描かれ、夢の中のよう。かがんで床に落書きをしている子の姿も探すことができます。

Liisa「記憶のラビリンス」=枯木又分校

 閉校となった木造校舎の静けさと、子どもの頃は容易に飛び立てた空想の世界を思い出し、郷愁が胸に広がります。

Liisa「記憶のラビリンス」=枯木又分校

 分校の脇の小高い丘にある社(やしろ)の前には、森の風景や野辺に咲くユリを刷り込んだ石が無造作に置かれています。見過ごしそうでも、目にとまる違和感と存在感が面白い作品です。

衣川泰典「石化する風景」=枯木又分校

 枯木又分校を少し下ると、森へ向かう道に沿って等間隔に木柱が立てられています。大地の芸術祭に初回から参加している作家磯辺行久さんが、中越地震の影響で〝閉村〟した旧小貫(こつなぎ)集落の営みを、元住民から聞き取りながら再現するプロジェクトです。

磯辺行久「葬送は分け隔てのない越後妻有に特有な”和み”の文化の証であった」=新潟県十日町市中条地区

 入り口付近で地元の方が「この道は集落の火葬場へ向かう。昔はみんなで棺桶を担いでこの道を歩いた」と教えてくれました。
 木柱に導かれ森へ分け入ると、...

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