マタギの里で知られる村上市山北地区の山熊田は、この季節になると活気づく。週末が来ると男衆は猟銃を手に山に分け入り、ツキノワグマを追う。クマ狩りの始まりだ

▼眠りから覚めたクマを勢子(せこ)たちが「ホーウ」と叫んで麓から追い立て、山頂近くで待ち構えた鉄砲撃ちがズドンと仕留める。「クマ巻き」と呼ばれる伝統的狩猟法だ

▼何年か前、勢子の一員として参加したことがある。驚いたのは助っ人の多さだ。地元の猟師が減って外部の応援なしに成り立たないのだが、「来る者拒まず」という男たちの開放的な人柄に引かれて加わる人も多い

▼もう一つ春の恒例行事がある。マタギたちがブナ林を案内する登山ツアーだ。猟期を終えると森は一斉に芽吹く。その美しさを独り占めしてはもったいないとの思いから始め、30回を数える。ここ数年参加しているが、リピーターも多く、今年は40人近くが集った

▼「にぎやかな過疎」という言葉がある。農村研究で知られる明治大の小田切徳美教授が提唱する造語だ。「人口減少は進むが、移住者や地域の人々がワイワイガヤガヤとしている状況」を指す。多彩な人が気兼ねなく訪れ、交流し、地域がごちゃまぜ状態にあることだという

▼小田切さんは著書でにぎやかな空気感が人を呼び、ついには出生数の増加に転じた地域もあると説く。本県は人口減が深刻で、活力と自信を失いつつある所も多い。そんな地域こそ下を向くことなく、まず外に向かって門戸を開いてみてはどうだろう。

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