人事を刷新して局面を転換し、政権浮揚につなげたい岸田文雄首相の狙いが見て取れる。
だが難局を打破するのに肝要なのは、政権が国民の声を丁寧に聞き、向き合うことだ。新体制には誠実な政権運営を求めたい。
第2次岸田改造内閣が10日、発足した。19人の閣僚のうち、財務相、外相ら5人を留任し、5人を再入閣させた。
顔触れに目新しさはないが、直面する課題に対応するための手堅い布陣と言えるだろう。
「経験と実力」を強調し、加藤勝信厚生労働相と浜田靖一防衛相を再起用した。それぞれ今後を見据えた新型コロナウイルス対応や、防衛費増額が焦点の国防を担う。即戦力を期待した人事だ。
閣僚経験を踏まえ、昨年の自民党総裁選で争った高市早苗氏を経済安全保障担当相、河野太郎氏をデジタル相に充てた。西村康稔氏は経済産業相で再入閣させた。
起用された各氏の手腕と実行力が試される。
党役員人事は挙党態勢を印象付ける姿勢が顕著だ。
政調会長に、死去した安倍晋三元首相の側近だった萩生田光一氏を据えて最大派閥の安倍派に配慮を見せる一方、選対委員長には森山派の森山裕会長を置き、非主流派を取り込んだ。
難題である衆院小選挙区定数「10増10減」の選挙区調整に向けて、森山氏と第2派閥・茂木派会長の茂木敏充幹事長とで党内をまとめさせる計算だろう。
内閣改造は当初9月前半とみられていたが1カ月も早まった。
背景で指摘されるのは内閣支持率の急落だ。
共同通信社が7月30、31両日に行った世論調査では、内閣支持率は51%で前回調査より12ポイントも下がり、内閣発足以来最低となった。
安倍氏の銃撃事件を機に、かつて霊感商法などで社会問題を起こした世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治家の関係が注目され、支持率に響いた。
内閣改造で首相は、安倍氏実弟の岸信夫氏をはじめ、旧統一教会との関係が取りざたされた7人を交代させた。
内閣改造の記者会見では旧統一教会との関係について、自ら関係を点検し、結果を踏まえて厳正に見直すことを了解した者のみ閣僚に任命したと強調した。
不法行為の相談や被害者救済に万全を尽くすと述べたものの、教団と政治家の関係は依然解明されていない。内閣改造で幕引きというわけにはいかない。
旧統一教会や安倍氏の国葬を巡っては、野党から説明を求める声が出ている。防衛力強化の在り方やウイルス対策、物価高への対応など重要課題は山積している。
首相は「聞く力」を自負するだけでなく、国民の疑問に「答える力」もしっかり発揮すべきだ。