急速に進む物価高に賃金上昇が追い付かなくては、家計が圧迫され続ける。企業の規模や業種によらぬ幅広い賃上げが不可欠だ。

 2023年春闘は、経団連の十倉雅和会長と連合の芳野友子会長が23日に会談し、事実上のスタートを切る。

 経団連は「経営労働政策特別委員会(経労委)報告」を発表し、物価高の現状を重視して賃上げを強化し、基本給を底上げするベースアップ(ベア)を前向きに考えるよう会員企業に要請した。

 一方連合は、ベアを月給の3%程度とし、定期昇給分と合わせ5%程度の賃上げ目標を掲げる。

 今春闘を巡り、岸田文雄首相は経済界に物価高を超える賃上げの実現を求めており、「官製春闘」の様相を呈している。

 これに呼応する形で、カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが国内従業員の年収を最大4割上げるとしたほか、リユース業のハードオフコーポレーション(新発田市)が月額1万円のベアを決めた。

 重要なのは、こうした大企業や好業績の企業だけでなく、ウイルス禍の影響が残る中小企業にも賃上げの波が及ぶことだ。

 中小企業の多くは原材料高などで逆風にさらされている。

 国内企業物価指数は22年の年間ベースで前年比9・7%上昇し、比較可能な1981年以降で最大の伸び率となった。

 ただ製品価格へのコストの転嫁が進んで企業業績が改善すれば、賃上げにつながる可能性はある。

 下請けが多い中小企業が、適切に価格転嫁できることが肝要だ。発注側は下請けと協議し、取引価格の適正化を進めてほしい。

 労働者に目を向ければ、物価高に賃金の伸びが追い付かず、賃金の実質的な価値が下がっている。

 消費者物価の伸び率は2022年12月に前年同月比で4・0%と41年ぶりの水準となった。一方で、物価上昇を加味した実質賃金は11月に3・8%減と低下した。

 若い社員や子育て世代、有期雇用の人たちは特に、物価高の影響を強く受けている可能性が高い。人材確保の観点からも、待遇改善を着実に進める必要がある。

 日銀は今月の金融政策決定会合で、金利を低く抑え込む現行の大規模金融緩和策の維持を決めた。

 金融市場では長期金利の上限引き上げを求める圧力が強まっていたが、黒田東彦総裁は「経済をしっかり支え、企業が賃上げできる環境を整えることが重要だ」とし、景気の下支えを優先した。

 長期金利が上昇すれば、住宅ローンや企業の借り入れの負担が増し、回復途上にある景気を冷やす恐れがあるためだろう。

 物価上昇に賃上げが伴わず、消費が落ち込む悪循環を避けねばならない。それには継続的な賃上げの実現が必須だ。