何をもって「異次元の少子化対策」というのか、いまだにはっきりしない。首相は相変わらず答弁で核心を避け、官邸内からは首をかしげるような説明も浮上した。政権の本気度が全く見えない。

 岸田政権が掲げる子ども関連予算倍増を巡り、岸田文雄首相の答弁が迷走している。

 15日の衆院予算委員会では、児童手当や保育サービスを含む「家族関係社会支出」を、2020年度の国内総生産(GDP)比2%から倍増を目指す考えを示した。

 ところが、これが「GDP比4%への倍増」と報じられると、翌日には松野博一官房長官が「将来的な倍増を考える上でのベース(基準)として(首相は)GDP比に言及したわけではない」として軌道修正した。

 首相の踏み込んだ答弁を、身内であるはずの官邸サイドが火消しに回った形だ。

 22日の予算委で改めて問われ、首相は「中身を整理している」と曖昧な内容に回帰した。

 これでは「国会のやりとりを外で否定するなら国権の最高機関は成り立たない」と野党が批判するのは当然だ。

 想定される予算倍増の計算基点には、(1)首相が言及した家族関係社会支出(2)少子化社会対策大綱の主要施策を執行する少子化対策関係予算(3)4月発足の「こども家庭庁」予算-の三つがある。

 家族関係社会支出の約10兆円から、こども家庭庁予算の4兆8千億円まで開きがあり、どれを基点とするかで規模が変わる。

 27日の予算委でも野党は倍増の内容を迫ったが、首相は「数字ありきではない」と色をなし、6月にまとめる経済財政運営の指針「骨太方針」までに大枠を示すという従来答弁に徹した。

 4月投開票の統一補欠選・地方選で財源や負担の議論が争点になることを避けたい思惑だろう。

 しかし首相が正面から答えなくては、議論は深まりようがない。

 木原誠二官房副長官の予算倍増を巡る発言も理解に苦しむ。

 テレビ番組で「子どもが増えれば、それに応じて予算は増える。出生率がV字回復すれば、割と早いタイミングで実現される」と述べた。少子化対策の効果がなければ「倍増と言ってもいつまでたってもできない」とも話した。

 出生率回復という「目的」と、実現に向けた予算倍増という「手段」の順序が逆ではないか。

 首相が子ども関連予算の倍増を公約したのは21年9月の自民党総裁選だ。少子化のスピードを考えれば、一刻も早く本質的な議論に入り、対策を実践するべきで、1年半がたっても具体化しないのではあまりに遅い。

 政策決定の先延ばしは、産みたくても産めない状況に陥っている社会を放置しているのと同じだ。改めて政治の責任が問われる。