不安と課題を残したままの再稼働と言わざるを得ない。老朽化による劣化を見逃し、安全を脅かすことがあってはならない。

 関西電力は、営業運転開始から48年が経過し国内で最も古い高浜原発1号機(福井県)を再稼働させた。2011年の定期検査入り以降停止し、稼働は12年ぶりとなった。既に発送電を始め、28日には営業運転に入る見通しだ。

 岸田文雄首相が昨年、原発の最大限活用を打ち出してからは、初の再稼働となる。運転開始から40年を超えた原発の稼働は、関電美浜3号機に続き2例目だ。

 関電の原発は、運転開始から47年の高浜2号機も予定通り9月に再稼働すれば、廃炉中を除く全原発が稼働して7基態勢になる。

 国は、東京電力福島第1原発事故を踏まえた「原発依存度低減」から原発回帰へ転換し、60年超の運転もできるルールにした。

 高浜1号機は将来、国内初の60年超運転となる可能性もある。

 しかし世界に60年を超えて運転した原発はない。老朽化した原発には問題点が指摘されている。

 原発の設備には運転を始めると実質交換できない部分があり、強度や機能の劣化は避けられない。

 運転中に中性子の照射を受ける原子炉容器はもろくなると事故で高温の炉心に冷水を注入した際、容器が割れる恐れがある。

 劣化の度合いを予測し、安全性の的確な評価が欠かせない。設計の古さから最新の安全水準を満たさなくなる可能性もいわれる。

 国や電力業界には、劣化のリスクなどを隠さず、丁寧に国民に説明する姿勢が求められる。何よりも安全、安心を優先すべきだ。

 原発の稼働には、使用済み核燃料の発生が伴う。

 政府と大手電力各社は使用済み核燃料を再利用する方針だが、青森県六ケ所村にある日本原燃の再処理工場は未完成である。

 一時的な保管場所となる中間貯蔵施設は、国内での建設済みは青森県むつ市にある一カ所のみ。電力各社は使用済み核燃料の扱いについて対応を迫られている。

 関電は福井県に対し、中間貯蔵施設の県外候補地を23年末までに示すと約束したが思うように進まず、フランスに一部を搬出する計画でしのいでいるに過ぎない。

 2日には中国電力が関電と共同で、山口県上関町の中国電所有地での中間貯蔵施設の建設を検討していることを明らかにした。

 町の原発計画は福島第1原発事故などを受けてほとんど進まず、貯蔵施設は中国電が代替の振興策として町に示した。だが、住民の賛否は割れ、先は見通せない。

 「核のごみ」と言える高レベル放射性廃棄物の最終処分は場所も方法もめどが立っていない。

 岸田政権は、再稼働に前のめりになるのではなく、こうした難題の解決に全力を注ぐべきだ。