かつては世界を席巻し、「日の丸半導体」と呼ばれた日本の半導体産業が勢いを取り戻す契機となるか。業界再編に向けた動きとともに注目したい。
官民ファンドの産業革新投資機構が、半導体材料大手JSRを9千億円超で買収する。機構は株式公開買い付け(TOB)を実施、株式を非上場化する。
JSRは非上場化で短期的な利益にとらわれず、研究開発に集中することを狙う。思い切った投資で競争力を強化し、5~7年後の再上場を目指している。
「産業のコメ」と呼ばれる半導体は、経済安全保障推進法で特定重要物資に指定された。国はサプライチェーン(供給網)の体制づくりを急がねばならない。
米国と中国の覇権争いなどで供給が途絶えれば、産業界へのダメージは計り知れない。人工知能(AI)など先端技術を巡る国際競争で後れを取ってしまう。
国の後ろ盾を得て規模拡大と業界再編を目指したいJSRと、半導体の供給網強化を図りたい機構の思惑が一致するのは当然だ。
主力製品の「フォトレジスト」は半導体の回路形成に用いる薬剤で、英調査会社によると日本メーカーが世界シェアの9割を握る。
企業別にはJSRが3割近くを占め、上越市に工場がある信越化学工業も2割近くを誇る。
一時は世界の過半に達した日本の半導体製造が、足元で1割程度に低下したのに対し、材料分野ではまだ優位を保っていることを重視すべきだろう。
半導体の需要拡大が見込まれ、材料の重要性は増している。業界再編で競争力を高め、世界市場で国内メーカーが再び主要な位置を占めることを期待したい。
経済産業省は6月、半導体関連の国内売上高を2030年に20年の3倍に当たる15兆円に引き上げると宣言した。
半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の工場を熊本県に誘致し、次世代半導体の国産化を目指す新会社「ラピダス」を支援するなど、半導体産業復活へと関与を強めている。
大光銀行など地銀9行と資本業務提携するSBIホールディングスは、台湾のメーカーと日本での半導体工場新設で基本合意した。
世界的に半導体拠点の分散化や誘致競争が進んでいる。本県も豊富な工業用水や空港、新幹線といった高速交通インフラを生かして誘致を推し進めてもらいたい。
ラピダスが工場を建てる北海道は今月、熊本県と半導体産業の強化に向けた連携協定を結んだ。人材確保・育成、インフラ整備などでも協力すると確認した。
両道県は関連産業の集積を目指している。単独では困難な取り組みで地方同士が協力し、成長産業を通じてそれぞれの地元経済を活性化させる試みを参考にしたい。