1950年代後半の東京の下町を生き生きと描いた映画「ALWAYS三丁目の夕日」のオープニングでは、建設途中の東京タワーが大写しになる

▼堤真一さん演じる町工場の経営者が、従業員に自分のことのように自慢する。「完成すれば世界一になる」。徐々に高さを増していく東京タワーは、高度成長期の希望の象徴として劇中に度々登場する

▼その東京タワー1基分と、ほぼ同量の鉄骨が使われた。過酷事故を起こした東京電力福島第1原発の廃炉作業で、4号機の使用済み核燃料の取り出し用に設置されたカバーである。水素爆発で損傷した建屋の上部と側面を覆う逆L字型カバーには、約4200トンもの鉄骨が用いられた

▼ただ、この頑強なカバーもほかの号機では使えない。それぞれ損傷の状況が異なるためだ。膨大な鉄を使ったカバーが1基だけにしか使えないところにも、廃炉が苦難の道のりであることがうかがえる

▼事故から11年が経過するというのに、作業は順調には見えない。最難関は溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しだ。1号機では先日、ロボットが内部を調べたものの、デブリの全容を把握するには程遠かった。政府、東電は事故から30~40年で廃炉を完了させるとのシナリオを描くが、どれだけの人が信じるだろう

▼いまだに現在進行形の事故であると思い知らされる。日本の取り組みを各国も注視しているはずだ。東京タワーで高い技術力を世界に示したこの国は今、極めて困難な課題に直面している。

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