核のごみをどうするのか。最終処分場の先行きが見通せない。「トイレなきマンション」に例えられる原発政策のほころびを直視し、国全体でじっくりと議論していく必要がある。

 原発から出る高レベルの放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた第1段階の文献調査に関し、長崎県対馬市の比田勝(ひたかつ)尚喜市長は「市民の合意形成が不十分だ」と述べ、国側に応募しない意向を表明した。

 風評被害への懸念や、「想定外の要因による危険性を排除できない」ことを理由に挙げた。

 東京電力福島第1原発事故は、想定外の事態が重なった。「想定外」への不安を強調した比田勝市長の思いは、理解できる。

 対馬市では2006年ごろから処分場誘致を巡る議論があり、07年には市議会が誘致反対の決議を可決していた。しかし今年9月に市議会は、文献調査の受け入れを求める請願を賛成10人、反対8人の僅差で採択した。

 市議会が態度を変えた背景には人口減少と経済衰退がある。調査受け入れによる最大20億円の交付金で地域振興を図る狙いだった。

 衰退が進む地方の弱みにつけ込むように、巨額の交付金で懐柔する国の手法が、対馬に限らず地方で住民の分断を招いている。

 市長は、賛否が割れる中で調査に応じれば住民の分断を深めるとの認識から、島を二分した議論に「終止符を打ちたい」と述べた。

 国は、地方が応募を拒んだ背景を重く受け止めるべきだ。

 調査には3段階ある。資料による文献調査、次が岩盤などを調べる概要調査、さらに地下施設による精密調査だ。知事と市町村長が反対なら先へ進まない。

 政府は4月、最終処分に関する基本方針を改定した。文献調査の実施地域の拡大が狙いだ。

 文献調査が行われているのは北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村だ。

 先ごろ行われた寿都町議選の結果は、調査に賛成する立場が5人、反対が4人で拮抗した。

 片岡春雄町長は概要調査に進む前に住民投票を行う考えだ。町議選の得票数は賛成、反対の双方に大きな差がなく、町長は今後のかじ取りで住民の反対意見に配慮が求められよう。

 鈴木直道知事は概要調査に進むことには反対し、「北海道だけの問題ではない」と訴える。

 現在、使用済み核燃料が大量にたまっている。国は全量を再処理する方針だが、計画は大幅に遅れ、行き詰まっている。

 岸田政権は、原発の再稼働など原子力利用の「前段」で示す前向き感とは裏腹に、使用済み核燃料の処理や核のごみの問題を含む「後段」には展望を具体的に示しているとは言い難い。

 国は責任を持ち、国民に説明を尽くさなければならない。