政権に対する厳しい民意を突きつけたといえる。裏金問題の実態解明や政治改革に、政権が真摯(しんし)に向き合う姿勢を示さなくては、政治への信頼は回復できない。

 衆院3補欠選挙が投開票され、自民党が全敗した。

 派閥の政治資金パーティー裏金事件の逆風を受け、東京15区、長崎3区で異例の不戦敗に追い込まれ、唯一の与野党対決となった島根1区を大差で落とした。

 自民が島根の選挙区で敗れるのは、1996年の小選挙区制導入以降、初めてだ。

 3選挙区とも政治とカネを巡る不祥事が絡んだ。3議席は元々、自民議席だっただけに、岸田政権への打撃は大きい。

 自民は告示前に裏金事件の関係議員ら39人を処分したが、実態解明が不十分なまま幕引きしたように映り、不信感を増幅させた。

 島根1区で共同通信社が実施した出口調査で、裏金問題を「重視した」と答えた人は「大いに」と「ある程度」を合わせて77%に上った。東京15区も同傾向で、投票行動に影響したとみられる。

 自民は告示後に、政治資金規正法改正の独自案を示したものの、議員への罰則適用が限定的な上、政治資金パーティー収入の透明化や政策活動費の在り方については案すら示さなかった。

 岸田文雄首相は選挙の応援演説で「改革を思い切って進める」と訴えた。しかし裏金問題や政治改革に徹底的に取り組む決意は感じられず、選挙結果からは有権者の怒りや失望がうかがえる。

 国民生活に密接な課題についても、有効な手だてを打ち出せているとは言い難い。

 急速な円安や物価高により、物価変動を考慮した1人当たりの実質賃金は23カ月連続のマイナスだ。賃金と物価がそろって上がる経済の好循環は実感に乏しい。

 看板政策に掲げる異次元の少子化対策は財源論が生煮えだ。

 自民党政治が機能不全に陥っていると指摘せざるを得ない。首相は口先で意欲を語るだけでなく、行動力で示すべきだ。

 一方、立憲民主党は3補選を全勝し、野党第1党の存在感を示した。ただ今回は、敵失の側面が強いことを忘れてはならない。

 立民は共産党との候補一本化が効果を収めたとし、次期衆院選へ野党連携構築を急ぐ考えだ。

 野党がまとまり、政権交代が可能だという印象を持たせることは、政治に緊張感を生む。連携を構築できるかどうかが鍵を握る。

 危惧するのは、3補選の投票率がいずれも過去最低を記録したことだ。補選は低投票率になる傾向があるとはいえ、政治不信の広がりは無視できない。

 実効性のある政治改革を成し遂げられなければ、有権者の政治離れはさらに進む。与野党には不断の努力が求められる。