ドイツ文学者で随筆家でもあった池内紀さんが「古民家の教え」という一文で、本県の木造家屋について書いている

▼家屋の解体と移築現場に立ち会った際の話だ。礎石に乗った柱が2階まで貫いて立っていた。地震の揺れをかわす免震効果があるという。2004年の中越地震や07年の中越沖地震でもビクともしなかった

▼屋根裏では曲がった木が梁(はり)として使われていた。北国のスギなどは積雪の重みで根元が湾曲することがある。曲がった梁は火縄銃に似ているため鉄砲梁とも呼ぶ。山の雪の重さに耐えた木は屋根を支える材としてぴったりだ

▼高度経済成長期を境に、全国にあった伝統建築は「古くさい」と次々に消えていった。城下町や宿場町の家並みも、新建材で様変わりした。「町は一挙に醜くなった」。池内さんは古さの価値を再評価すべきなのにと嘆いた

▼日本国憲法は公布から78年。最高法規としての歴史はそう古くないようにも思えるが、公布から不変の未改正憲法としては「世界最古」という。わが国にとって戦力不保持を第一義とする平和憲法は柱や梁といえる。時代は移ろい、改正すべきか。それとも守り続けるべきか

▼「あれを残していれば」。折々の節目でそんな声をよく聞く。一方で、いま政治は大きな転換点に立つ。岸田文雄首相の後継を選ぶ自民党総裁選には、空前の数の出馬が取り沙汰されている。同時期には立憲民主党の代表選も重なる。憲法をはじめ、国の柱や梁についての骨太の議論が聞きたい。

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