個人で業務を受けるため、弱い立場に置かれやすい労働者を守るための新法だ。働き方の多様化が進む中、誰もが安心して働ける環境を整えていかねばならない。

 組織に属さず働くフリーランスを保護する新法が11月に施行された。トラブルを防ぐため、発注事業者に適正な支払いや、ハラスメント対策などを義務付ける。

 取引の適正化と就業環境の整備が柱となる。発注元に業務内容や報酬額などを書面やメールで明示することや、業務完了から60日以内の報酬支払いを求めている。

 1カ月以上の業務委託をした場合、不当に報酬額を低くする「買いたたき」や、発注した成果物の受領拒否など7項目を禁じた。

 違反があれば、公正取引委員会などが勧告や命令を出し、事業者名を公表する。命令に従わなければ、50万円以下の罰金を科す。

 就業環境の整備では、ハラスメント対策のほか、育児介護と両立できる配慮が必要となる。

 フリーランスとして働く人たちは、IT技術者やデザイナー、建設、配達員、通訳、芸能など、多岐にわたる。

 2020年の政府調査では国内に462万人いると推計されている。オンラインの普及で、地方でも増えている。

 柔軟な働き方が可能な一方で、口約束での仕事の依頼や、不当な取引が絶えない。トラブルに遭っても泣き寝入りを余儀なくされることが多かった。

 公取委などが今年5~6月に行った調査では、フリーランスの67・1%が、報酬額についての協議が十分ではないと回答した。44・6%が取引条件を明示されなかったことがあるとした。

 組織に属さなくても、労働環境は守られなくてはならない。

 公取委は11月、出版大手「KADOKAWA」と子会社の下請法違反(買いたたき)を認定し、再発防止を勧告した。

 23年に、生活雑誌の記事作成や写真撮影を委託したライターやカメラマンに対し、支払いを一方的に引き下げたためだ。違反行為が新法の施行前だったことから下請法が適用されたが、こうしたことは新法の禁止行為となる。

 新法では、下請法の適用対象外だった中小企業も含まれる。

 気になるのは公取委などの調査に、事業者の54・5%、フリーランスの76・3%が新法の内容を知らないと回答していたことだ。

 石破茂首相は今月、首相官邸のX(旧ツイッター)などに動画を投稿して新法の周知を促し、「フリーランスの活躍を応援する」と呼びかけた。積極的に周知を図ってもらいたい。

 新法ができたとはいえ、労働時間の規制や最低賃金の保証がないなど、フリーランスを巡る課題は残る。働き方の多様化に合わせた見直しは今後も不可欠だ。