震災前の状態に戻すべく、一つ一つの石を丁寧に積み上げていく。その数、およそ10万個。気の遠くなるような作業だ。2016年の熊本地震で甚大な被害を受けた熊本城の石垣である
▼1607年に城づくりの名人と言われた加藤清正が築いた名城だが、多くの櫓(やぐら)や門が揺れで倒壊するなどした。石垣も、あちらこちらで崩れたり膨らんだりした
▼そんな城を訪ねる機会があった。崩れたままの石垣や修復中の櫓が目についた一方で、平日にもかかわらず多くの観光客でにぎわっていた。一足先に復旧した天守閣が既に公開されていることが大きな要因らしい
▼完全復旧は2052年度で約30年も先だ。当初は37年度の完了を目指していた。しかし石垣の安全性を高めながら丁寧に修復するため、15年も延長した。1日に積み直せる石は平均3個。修復進捗(しんちょく)率は現時点で5%強だという。扱える職人も少なく、全国から集める必要がある
▼長期作業といえば、東京電力福島第1原発の廃炉もそうだ。51年までに終える計画が描かれている。だが廃炉作業の最難関とされる溶融核燃料(デブリ)の取り出し開始は予定より遅れ、これまでに取り出したのは0・7グラム。総量は推計で880トンもあり、本格的な採取方法さえ決まっていない。全量を回収できるのか。やはり気が遠くなる
▼どちらも丁寧で根気のいる作業が求められる。長く困難な道のりだ。今後を担う人材育成が欠か せない。「人は石垣、人は城」。 そんな言葉を残した武将もいた。