幼い頃、両親に「おコメの中には神様がいる。だから、ご飯は一粒も残してはいけないよ」と、よく言われたものだ。戦後の食糧難を経験した親世代は、コメのありがたさを強く感じていたのだろう
▼古来、日本人にとってコメは、神様のように尊いものだったはずだ。「お稲荷さん」と親しまれ、稲作の神様を祭る稲荷神社が、全国各地に鎮座する。秋の豊作を願った多くの人に頼られたと思われる
▼宗教学者の島田裕巳さんは数ある神社の中でも、摂社末社や街中の小祠(しょうし)を数え上げれば、稲荷神社が最も多いと、自著で述べている。弥彦神社の祭神・天香山命(あめのかごやまのみこと)の妻である熟穂(うましほ)屋姫命(やひめのみこと)など、稲穂の「穂」の字が名前に付く神様もいらっしゃる。コメの神様たちも、人々の生活を苦しめる現在の異常なコメの高騰を、苦々しく思っているに違いない
▼先月に発表された総務省の家計調査では、2024年の2人以上世帯のコメ購入量が前年より増えていた。「令和の米騒動」によって品薄感が強まったことが、消費者を購入へと走らせたようだ。コメはなくてはならないものだと日本人が大切に思っている証しでもある
▼だからこそ、コメをおろそかにした政治には、国民は敏感だ。大正時代に米価が急騰したために起きた「米騒動」は各地に波及して、寺内正毅(まさたけ)内閣を総辞職に追い込んだ
▼その二の舞は被りたくないのか、石破茂首相は7月まで毎月、備蓄米を追加放出する。米価安定への願いを、コメの神様がかなえてくれればいいのだが。