「格差社会」が流行語の上位に入ったのは2006年。社会学者の山田昌弘さんが、努力が報われず将来に希望を持てない人とそうでない人との分断を「希望格差」と表現し、広まったとされる
▼山田さんは近著「希望格差社会、それから」で格差は固定化し、社会に希望を持てない層は今や氷河期世代から若者まで拡大したと指摘した。現実社会にはあらがわず、ゲームや推し活、ペットなどに幸せを見いだしていると分析する
▼2本の映画が思い浮かぶ。「レディ・プレイヤー1」(18年)と「コングレス未来学会議」(13年)。いずれも近未来、荒廃した社会で人々が逃避するように仮想空間に入り浸る場面が印象的だった
▼日本財団の昨年の18歳意識調査によると、自国の将来が「良くなる」と答えた日本の若者は15%で「自分の行動で国や社会を変えられると思う」は46%にとどまる。いずれも、調査対象の米英中など6カ国で最低だった
▼物価高でも賃金は上がらない。年金制度は危うく、病院は赤字で将来も安心して医療を受けられる保証はない。温暖化で酷暑や豪雨は日常になった。世界では戦争が続き、自国第一主義がまかり通る。閉塞(へいそく)感を抱くのは若者に限らない
▼山田さんは最近は選挙も推し活化しており、政府も官僚も国民も、本気で抜本的改革を求めてはいないのではないかとみている。希望を持ちづらい社会かもしれないが、仮想に逃避しても何も変わらない。このままでは映画で見た未来が現実になってしまう。