「トランプ流」のペースに振り回されてはならない。日本は譲歩ばかりでなく、柔軟な戦略を持ち、日米双方の利益につながる着地点を見いだしてもらいたい。

 トランプ米政権の関税引き上げを巡る日米両政府の担当閣僚交渉が米ワシントンで始まった。これに先立ち、トランプ大統領が交渉で訪米した赤沢亮正経済再生担当相とホワイトハウスで会談した。

 会談でトランプ氏は赤沢氏に、日米安全保障の在り方に不満を伝え、防衛面の負担増に言及した。「日本との協議が最優先」との考えも示し、終了後には自身の交流サイト(SNS)に「大きな進展だ」と投稿した。

 トランプ氏が格下とも言える赤沢氏と異例の会談に臨んだのは、高関税の見直しを求める日本に圧力をかける狙いからだろう。

 交渉直前に突如「私も出席する」と表明し、SNSで防衛負担や非関税障壁といった「貿易の公平性」を議論すると明らかにした。

 奇襲のようなトランプ氏の登場で、日本はいきなり交渉の主導権を握られた印象がある。

 石破茂首相は赤沢氏の報告を受けた後、「次につながる協議になったと評価している」と述べたが、安心できる状況ではない。

 トランプ氏は、貿易が不均衡だと見なす約60の国と地域に税率を上乗せする「相互関税」の第2弾を発動した直後に、上乗せ分を90日間停止すると表明した。

 各国・地域は米国に関税の見直し交渉を申し入れている。日本の交渉は主要国の中でも早く、今後の協議の試金石となるものだ。

 日本が関税を武器に譲歩を迫る米国との間で穏当な着地点を見いだせるかどうか。各国が注視していることを忘れてはならない。

 高関税政策はインフレなどを通じて米経済に打撃を与えかねず、関税見直しが米国にも重要であることをしっかりと訴え、毅然(きぜん)とした姿勢で説得に努めてほしい。

 閣僚級交渉では、赤沢氏がベセント財務長官らと交渉し、関税引き上げは遺憾と伝え、見直すよう強く求めた。

 早期合意と両首脳による発表を目指すことで一致し、月内の再協議実施に向けて調整する。

 次回以降の交渉は、米国が主張する自動車の非関税障壁の改善や農産品の市場開放を巡る攻防になるとも予想されている。

 SNSへの投稿などから、トランプ氏がコメと自動車に関心があるのは明確だ。交渉の結果、農産品輸入や自動車の安全基準の緩和に踏み切れば、国民生活や産業に大きな影響を与える懸念がある。

 安全保障と経済の交渉が同時に行われることが想定され、日本が難しい交渉を迫られるのは必至だが、米国のペースにのまれて過度な譲歩を受け入れることは避けねばならない。政府は慎重に交渉に当たってもらいたい。