成果と呼べる修正でなく、課題の先送りでしかない。いかに国民の老後を支えるか、課題と向き合う姿勢が欠けている。

 自民、公明、立憲民主の3党が28日、年金制度改革法案の修正案を国会に共同提出した。修正で、基礎年金(国民年金)の将来的な底上げを付則に明記した。

 修正案では、実際に底上げを実施するかどうかは2029年に行う年金の「財政検証」の結果を踏まえ判断するという。

 これでは当面、判断を棚上げするに過ぎない。

 保険料を納める現役世代が減ることで悪化が指摘される年金財政の抜本的な改革には遠く、胸を張れる修正ではない。

 底上げは、将来受け取る年金額を手厚くするもので、年金制度改革の焦点である。バブル崩壊の影響を受け、非正規雇用で働くことを余儀なくされた氷河期世代などが低年金に陥るのを防ぐために制度を改める必要がある。

 だが自民党内の反発が強く、政府は底上げを盛り込まない法案を16日に国会に提出していた。

 底上げを盛り込む修正に合意した後、石破茂首相は「非常に意義深い」と述べ、立民の野田佳彦代表も「現役世代や若者の年金の目減りに歯止めをかけることで合意できたのは大きい」と語った。

 しかし自民、公明、立民の3党が真に国民生活の将来を見据えて修正に至ったか疑わしい。

 夏の参院選での争点化を避けたい自公の思惑が透ける。立民に歩み寄ったことで、今国会で内閣不信任決議案を提出される可能性が低くなったとの見方がある。

 立民も参院選を前に存在感をアピールするため政策的な成果を欲したのではないか。

 底上げの手法にも課題が残る。堅調な厚生年金の積立金から基礎年金財政に振り向けるが、交流サイト(SNS)上には「横流しだ」「余裕があるなら厚生年金の保険料を下げるべきだ」との批判が上がっている。

 批判に応える説明がなくては、国民の理解は得られない。

 十分な国会審議を通し、説明を尽くしてもらいたいが、今国会の会期は6月22日までで、審議時間は非常に限られる。

 将来的に兆円単位で必要になる国費の財源確保策を示していない点も問題である。

 財源の裏付けがなくては、世代間で支え合う年金制度は存続していけない。

 現行制度のままでは、全ての国民が受け取る基礎年金の給付水準は、約30年後に3割低下する。

 多くの人が低年金になる懸念を放置していては、老後の困窮問題は深刻化する一方だ。

 将来の安心につながる年金制度を早急に整備するのが政治の役割である。党利党略を離れた審議が不可欠だ。