犯罪を繰り返さぬようにすることが肝心だ。着実に再犯防止を図る一歩として刑を機能させなければならない。
懲役と禁錮を廃止し、改善更生や再犯防止を目的とする「拘禁刑」に一本化する改正刑法が今月、施行された。
刑罰の種類変更は1907年の刑法制定以降初めてで、罪を犯したことに対する「懲らしめ」から、立ち直りへと軸足を移す。
従来の懲役で受刑者がしていた木工や洋裁といった刑務作業は義務でなくなり、各人の年齢や資質などに応じて必要な作業をし、必要な指導を受ける。大きな転換といえよう。
転換に至った要因は再犯率の高さにある。犯罪白書によると、刑事施設への入所2回目以上の「再入者」は2006年以降5割を超え、23年は55%だった。再犯を防ぐ取り組みが不可欠な状況だ。
再犯の可能性を基準としていた受刑者の分類も再編する。
従来の基準では万引を繰り返す高齢者と暴力団関係者のように、背景の異なる受刑者でも罪を重ねたというだけで同様に扱わざるを得ない場合もあったが、拘禁刑では処遇を「少年」「依存症回復」など24種類の課程にする。
70歳以上で認知症などを抱える受刑者が対象の「高齢福祉」は、身体や認知機能のリハビリに重きを置くことが可能になる。知的・発達障害者ら向けの「福祉的支援」では、社会適応に必要な知識や能力の習得に力を入れる。
作業義務に縛られないからこそできる処遇だ。受刑者の更生に資することを期待したい。
職員の受刑者への接し方も変わる。規律重視や厳格な対応を改め、個性を踏まえて、社会復帰に向けた意欲の喚起を心がける。受刑者との対話も重視する。
刑務官からは「厳しい指導で『二度と刑務所に来たくない』と思わせるのが改善更生だと以前は考えていた」との声も漏れる。
法務省は既に、受刑者を呼び捨てから「さん」付けに変更するなど刑務所の意識改革を進めてきたが、大転換に直面する現場の戸惑いは想像に難くない。
受刑者の更生に向け、刑務官らが果たす役割は大きい。国は研修など現場への支援を充実させてもらいたい。
一方、受刑者の立ち直りを目的とする改正に、複雑な思いを抱く被害者もいるだろう。
23年には、被害者や遺族の心情を刑務所などの職員が聞き取り、収容中の加害者に伝える「心情等伝達制度」が始まったが、被害者側からは「更生は期待していない」との内容もあったという。
再犯防止という社会の要請に応え、贖罪(しょくざい)の思いを原点とした更生となることが重要だ。処遇の効果を検証し、改善を続けていかなければならない。