原発に関する情報は、迅速かつ丁寧に提供されるべきである。大きな方針転換を伴うなら、なおさらだ。東京電力が誠実にその責任を果たしているか疑問だ。

 東電は、再稼働を目指す柏崎刈羽原発6号機の原子炉に核燃料を入れる装塡(そうてん)作業を始めた。

 2週間ほどかけて燃料集合体を移した後、核分裂反応を抑える制御棒の動作確認などを行う。再稼働に向けた最終段階の検査といえるだろう。

 地元自治体が再稼働に同意する前の段階での装塡だ。

 装塡と地元同意の順序に関する明確なルールはないものの、東電以外の電力会社はいずれも地元の同意を得た後で装塡している。

 柏崎刈羽では7号機の装塡も、再稼働への同意を得ずに、昨年4月に行われている。

 なぜ地元同意を得ずに手順を進めるのか。東電の進め方は異例と言わざるを得ない。

 東電は装塡後と、燃料を保管している間とでリスクに大きな差はないと主張するが、市民団体からは「装塡は実質的な再稼働に等しい」との指摘が上がる。疑問に対する十分な説明が欠かせない。

 燃料装塡の時期は、自治体の財政に影響してくることからも見過ごせない節目である。

 政府は2016年、立地自治体などに配る交付金の仕組みを変更した。国が原発を再稼働しても問題ないと判断してから9カ月たっても稼働しない場合、交付金を大幅に減額する仕組みにした。

 装塡が期間計算の起点になる。7号機の場合、再稼働せずに既に9カ月以上経過したため、交付金は26年度分から大きく減る。県は、県と5市町村で最大計約7億4200万円減ると試算する。

 6号機についても来年3月までに再稼働しなければ大きく減少する可能性がある。

 再稼働を急がせる国の意図は明らかだ。判断をせかし、原発についての県民の議論を妨げることがあってはならない。落ち着いた議論が必要だ。

 これまで東電は7号機の再稼働を優先させてきた。だが設置が義務付けられているテロ対策施設「特定重大事故等対処施設」の完成が大幅に遅れている。

 当初、今年3月に完成するとしていたが、人手不足などにより工事に手間取り、2月になって、完成が4年以上遅れるとの見通しを発表した。公表があまりに遅い。

 東京電力ホールディングスの小早川智明社長は4月の決算会見以降、6号機の再稼働を先行させる可能性に言及している。

 7号機を動かす目算が狂ったから6号機を動かすというのは、短絡的すぎる。

 6号機を先行させるのであれば、丁寧な説明がまずあるべきだ。

 問われているのは原発の安全性と同時に、東電の姿勢である。