一定の成果ではあるが、日本にとって最大の輸出国である米国の関税を結局、撤廃させることはできなかった。この合意によって日本の国益が損なわれないか。懸念は拭えない。
高関税の影響を最小限に抑えるため、日本政府は貿易の動向を注意深く監視し、適切な対応を取ることが求められる。
日米関税交渉が23日、合意した。米国は8月から日本に対する相互関税を25%にするとしていたが、15%とする。税率の発効時期はまだ決まっていない。
日本車や主な自動車部品への25%の関税も15%に下げられるが、鉄鋼とアルミニウムの50%は対象外だ。
◆日本の譲歩は残念だ
日本は米国産のコメ輸入量をミニマムアクセス(最低輸入量)の枠内で増やす。泡盛の原料などとなるタイ産などの長粒種米の輸入を減らし、主食用にも使える米国産の中粒種米を増やすとみられる。
トランプ米大統領は交流サイト(SNS)に「日本は米国に5500億ドル(約80兆円)を投資し、利益の90%を米国が受け取る」と投稿した。
石破茂首相は投資について「医薬品、半導体などの分野で政府系金融機関が最大5500億ドル規模の出資、融資、融資保証を提供可能にすると合意したのが正確なところだ」とした。
日本政府は、日本の自動車メーカーの国内販売網を活用するなどして、米国車の対日輸出を支援する。日本のメーカーが米国で生産した車の「逆輸入」にも取り組む。
両首脳はそろって合意を誇示した。石破首相は「対米黒字を抱える国の中で最大の引き下げ幅を得られた」と強調し、トランプ氏も「史上最大の貿易合意に署名した」と演説した。
忘れてならないのは、相互関税は、トランプ氏が4月、貿易赤字の解消や国内産業の保護を目的として、一方的に打ち出したということである。
日米関税交渉が始まった当初、日本が米国に対し相互関税などを全て撤廃するよう要求したのは当然だった。
粘り強い交渉の末、米国に関税の引き下げを受け入れさせたことは評価できる。だが、日本も譲歩を余儀なくされたことは残念だった。
特に自動車は日本の基幹産業であり、対米輸出額の3割近くを占める。石破首相は「大きな国益」としていた。
6月の貿易統計によると、自動車の米国向け輸出額は前年同月比で約26%減少し、輸出品目の中でもマイナス幅が大きかった。高関税のコストをかぶり価格を下げて輸出したケースもあったという。
今後、自動車の対米輸出がどれだけ回復するか、注視しなければならない。
今回の合意について、石破首相は「農産品を含め、日本側の関税を引き下げることは含まれていない。農業を犠牲にする内容は一切含まれていない」と胸を張った。
しかし、ミニマムアクセスの枠内とはいえ、主食用にも使える米国産のコメ輸入を増やすことは気がかりだ。
国内ではコメの需給が不安定な状況が続いている。中粒種米の輸入増は一部で歓迎されるかもしれない。
ただし、今後の作況次第では、米国産の流入が国内農家の経営の重荷となってくる恐れも否定できない。
◆世界経済に懸念材料
東京株式市場では、今回の合意が好感された。中でも関税の影響が不安視されていた輸出関連銘柄が買われた。
日経平均株価の上げ幅は1300円を超え、節目の4万1000円を回復した。昨年7月以来の高値水準である。
合意の内容は市場の想定以上の水準で、関税のマイナス影響を一定程度回避できたとの受け止めが株価を押し上げたとみられている。
とはいえ、経済の懸念材料が一掃されたわけではない。
米国が関税交渉で合意したのは英国やベトナム、日本などにとどまり、交渉は当初の想定より難航しているとみられる。
特に中国は米国の関税措置や輸出規制に対して徹底抗戦する姿勢を貫いている。
国内総生産(GDP)が世界1位の米国と、2位の中国との根深い対立は、世界経済に悪影響を及ぼす可能性が大きい。
両国には経済大国としての責任を自覚してもらいたい。