原発回帰へ雪崩を打つかのような動きだ。今も廃炉作業が難航する東京電力福島第1原発事故の教訓は生かされているのか。
使用済み核燃料の処理など、未解決の課題も多い。新たな原発建設は、急ぐことなく、国民の不安に耳を傾けねばならない。
関西電力は福井県美浜町の美浜原発建て替えに向け、地質調査を実施すると発表した。次世代型の「革新軽水炉」の建設が有力だ。
2011年の福島事故後、新たな原発建設の動きが具体化したのは初めてだ。実現すれば、将来にわたり長く原発が稼働することとなる。重大な分岐点と言える。
会見した関電の森望社長は「できるだけ早期に運転開始まで持っていきたい」とした。
新設方針へ関電の背を押したのは、国の原発政策の転換だ。
国は福島事故の反省から、中長期的なエネルギー政策の指針である「エネルギー基本計画」に、「可能な限り原発依存度を低減する」と記してきた。
しかし、22年に当時の岸田文雄首相が「原発の最大限活用」を方針に掲げ、廃炉となった原発の建て替えも容認した。
さらに今年2月に閣議決定した基本計画では「依存度低減」の表現を削除した。40年度の電源構成に占める原発比率は「2割程度」と記し、新設や増設がなければ維持が難しい割合とした。
ただ、計画決定前のパブリックコメントには4万件超の意見が寄せられ、原発回帰への批判が多数を占めた。計画の流れを受けた今回の新設方針に、広く理解が得られる状況なのかは疑わしい。
新設には費用面の課題も指摘される。関係者によると、建設費は1基当たり1兆円程度に膨らむ可能性があるが、調査開始から営業運転までに約20年かかるとされ、投資回収の見通しが立ちにくい。
政府内には原発を新設する電力会社への支援策として、高騰する建設費の増額分を事実上、電気代に上乗せする策も浮上している。利用者の負担が増える策であり、十分な説明が必要だ。
地域の不安解消も欠かせない。原子力規制委員会の山中伸介委員長は「美浜は断層が多く存在し、近くには大きな断層もある」とする。慎重な調査が求められる。
今回の関電の発表を受け、林芳正官房長官は、調査そのものには「個々の事業者の経営判断に関する事柄」だとして評価を避けたが、実態をみれば国がお膳立てをしてきたと言えよう。
原発事故を経験した福島県の内堀雅雄知事が「住民の安全安心の確保を最優先するよう国に繰り返し言っていく」と述べたことは重い。福井県の杉本達治知事も「地元にしっかりと説明することが必要だ」と求める。
国は国民の安全を第一に原発・エネルギー政策を講じるべきだ。