日本が核の抑止力に依存する実態が浮き彫りになった。唯一の戦争被爆国としての核廃絶の訴えとは、かけ離れている。日本の矛盾が露呈したといえる。
自衛隊と米軍が昨年2月に実施した「台湾有事」想定の机上演習で、自衛隊が「核の脅し」で中国に対抗するよう米軍に再三求めていたことが分かった。
机上演習は、米海兵隊が鹿児島、沖縄両県の南西諸島に臨時拠点を設け分散展開し、自衛隊は後方支援を担当した。
最終盤で中国の指導者が日米に核兵器使用をほのめかすとのストーリーになり、事態がエスカレートすることを危惧した米側は当初慎重姿勢で、具体的な対抗措置を取らなかった。
だが防衛省制服組トップの統合幕僚長が「日本防衛のため米も核の脅しで対抗してほしい」と繰り返し求めた。米軍側も最終的に応じたという。
米軍の行為は、同盟国への攻撃に対し核兵器などで報復する意思を示し、敵国に軍事行動を思いとどまらせる「拡大抑止」の概念に基づくものだ。
自衛隊側が「核の脅し」を再三求めた点が気になる。
核による威嚇をいとわぬ構えは、中国との緊張を高めかねない。核抑止は、疑念の連鎖や軍拡競争を招いてしまう側面があることを忘れてはならない。
核戦争につながる準備を日米当局が密室で進めていることも、国民の理解を得られないだろう。
米軍と自衛隊の一体化がさらに強まる懸念も拭えない。
日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。中国は急速に核戦力を増強しており、核弾頭数は2030年までに千発を超えると推計される。
台湾有事に米国が軍事介入することになれば、核保有国同士の大規模な戦争になる。
集団的自衛権を行使して自衛隊が参戦する最悪の事態は、何としても避けなければならない。
核を巡っては、日米の外務・防衛当局間の拡大抑止協議で、米軍による核使用のシナリオを議論していたことも判明している。
日米が昨年12月に策定した初の拡大抑止に関する指針で、核使用時の政府間調整の手順を明記したことも分かった。
一連の動きから、日本が米国による「核の傘」への依存を深めているのは明らかである。
被爆地の広島、長崎からは抗議の声が上がる。「核を使用する気がなければ想定なんてしない」という懸念は、もっともだ。
政府は、米軍との協議や、拡大抑止の指針について国民に説明する必要がある。
被爆国日本の姿勢が問われる戦後80年の年である。「核なき世界」という理想が後退することがあってはならない。