香山リカ
 香山リカ

 つらい経験から時間がたつことで悲しみなどが癒えることを、俗に「日にち薬」と言う。しかし、いくら時間がたっても消えない苦しみ、悲しみもある。テレビなどで被爆の経験を語る広島や長崎の人を見ていてそう思った。

 広島(8月6日)、長崎(同9日)に原子爆弾が投下されて、今年で80年がたつ。被爆者は高齢化し、すでに世を去った人も少なくない。それでもテレビ局や新聞社は懸命に取材を重ね、当事者の声を伝えようとしている。

 そこで目についたのが、「この苦しみは癒えない」「家族を失ったことは忘れられない」という言葉だ。毎日朝夕と、被爆で亡くなった家族の仏壇に手を合わせる、広島平和記念資料館にはいまだに入れない、な...

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