10月26日は1963年に日本が原子力発電に初めて成功した「原子力の日」だ。国は国策として原発を推進してきたが、世界最大級となる東京電力柏崎刈羽原発は、テロなどを防ぐ核物質防護体制の不備や工事の未完了などの問題が相次ぎ、再稼働はできない状況だ。31日投開票の衆院選では、各党がエネルギー政策を打ち出す。原発が立地する新潟県の柏崎市と刈羽村の住民からは、再稼働容認、反対だけでは単純に割り切れない複雑な思いが聞かれる。
63年10月26日、日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)で原子力発電に初めて成功した。その後、各地に原発が建設された。柏崎刈羽原発は1985年に1号機が営業運転を開始。97年には7号機が営業運転を始め、7基の総出力は約821万キロワットに上る。
2011年の東電福島第1原発事故後、原発への風当たりは強い。事故後に再稼働した原発は10基にとどまる。柏崎刈羽原発は全7基が停止したままだ。
さらに核物質防護体制の不備をはじめ、柏崎刈羽原発での一連の問題で原子力規制委員会は4月、東電に対して核燃料の移動を禁じる是正措置命令を出した。東電は命令解除まで再稼働はできない。規制委はくしくも「原子力の日」の26日から核防護不備問題で同原発の本格検査を始める。
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柏崎刈羽原発のある新潟2区では、立候補した3氏がそれぞれ、同原発の再稼働への見解やエネルギー政策を訴えている。
耳を傾ける有権者は、原発問題には複雑な思いを口にする。「原発は怖いけど、働いている人もいるというジレンマをずっと抱えている」。柏崎市の無職女性(79)は、原発関連企業の従業員も住む立地自治体で生活する葛藤を口にした。
刈羽村の農業男性(71)も「再稼働は積極的に賛成ではないが、雇用面を考えると反対ではない。再生可能エネルギーで必要な電力を賄えれば一番いいとは思っている」と語った。
同原発の再稼働問題に演説で触れる頻度は、2区の候補者間で温度差もある。
演説を遠巻きに聴いていた柏崎市の無職男性(70)は「われわれはこの地で一生暮らしていく。難しい問題だからこそ、とことん論戦してほしい」と各候補に再稼動やエネルギー問題への言及を求める。
刈羽村の会社員男性(36)は「単純に原発容認、反対だけではなく、それぞれのエネルギーの長所と短所の議論を深め、どう活用していくのか考えてほしい」と提起する。
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政府は22日、再生エネを最優先で導入する方針を明記した「エネルギー基本計画」を約3年ぶりに改定し、閣議決定した。衆院選では再生エネ関連施策にも注目が集まる。
2030年度の電源構成で再生エネを現状の約2倍に当たる36~38%まで拡大する目標を掲げた一方、原発の割合は20~22%で据え置いた。
柏崎市は再生エネ関連の新産業化を模索している。実際に市内では西山地区での風力発電や、松波地区の太陽光発電など民間による再生エネに関する発電計画が動き出した。
西山地区の無職男性(64)は「国はあまりにも原発にこだわりすぎているのではないかと感じる。再生エネの拡大には賛成で、新しい技術に資金を投入してもいいのではないか。エネルギー政策を投票の判断材料にしたい」と語った。