減便を繰り返した上での運賃引き上げだ。新潟市が緊急支援をした経緯もある。経営環境の厳しさは理解するが、乗客の不満は大きい。新潟交通には、利用者が納得できる丁寧な説明を求めたい。

 新潟市などで営業する新潟交通が、乗り合いバスの運賃引き上げを国土交通省北陸信越運輸局に申請した。

 新潟市中心部などの均一区間で現行210円を260円にするなど、大幅な値上げだ。認可が得られれば9月1日から実施する。

 値上げの要因の一つは新型コロナウイルスによる乗客数の減少だ。新潟交通によると、乗客はウイルス禍前の8割にとどまる。

 さらに世界的なエネルギー価格の高騰により、軽油購入価格が4割上昇した。運転手の不足も深刻だという。

 会社側は収入減とコスト増などで悪化した収支バランスの改善が急務だと説明している。消費税増税に伴う値上げを除くと2009年以来の運賃改定となる。

 一方、会社は感染禍を受けて運行本数の削減を続け、感染禍前と比べて約2割減らしている。昨年は新潟市に要請し、2億5千万円の緊急支援を受けている。

 ウイルス禍に先立つ15年、新潟交通と市は、乗り換え拠点を設けて路線を再編する新バスシステムをスタートさせた。

 しかし当初目指した郊外路線の拡充は進まず、利用者にとっては乗り換えの負担を強いられる形になっている。年間走行距離を維持するとした協定もウイルス禍で「凍結」された。

 こうした一連の経緯があるだけに、今回の値上げ方針に利用者からは「減便に加えて値上げとは」と批判の声が聞かれる。重く受け止めるべきだ。

 新潟交通は乗り合いバス事業の現状と値上げによる効果、将来の見通しなどを丁寧に説明し、利用者の理解を得るよう努力する必要があるだろう。

 経費削減など自助努力は当然だ。その取り組みも積極的に示してもらいたい。

 懸念するのは、値上げや減便がさらなる利用者の減少を招く負の連鎖に陥ることだ。新潟交通には利用者の目線に立った利用促進策を徹底的に検討してほしい。

 バスに限らず鉄道など地方の公共交通機関は弱体化する一方だ。

 マイカーの普及で利用者が減り続けてきた中で人口減が拍車をかけ、運行便数の削減や不採算路線からの撤退が各地で起きている。経営環境悪化で交通事業者の体力も低下している。

 とはいえ、高齢者や小中高校生らにとってバスや鉄道は必要不可欠なインフラだ。マイカーに比べて環境に優しい利点もある。

 三重県で開かれた先進7カ国(G7)交通相会合でも、人口減少地域の公共交通の在り方が議題となった。誰もが利用できる移動手段の提供が重要とする閣僚宣言を採択している。

 交通機関網の縮小はさらなる人口減にもつながりかねない。路線と地域を守るため、私たちも地域の公共交通のありように関心を持ち、積極的な利用に努めたい。