原発事故からどう身を守り、避難するか。命にかかわる基本方針をようやく見直すことになった。実態に即し、実効性ある内容とするよう急いでもらいたい。

 原子力規制委員会は、原発事故時に屋内退避を原則とする内容を含む「原子力災害対策指針(原災指針)」の見直しに着手した。

 能登半島地震で家屋の焼失や倒壊、ライフラインの寸断が多発していることを受けた対応だ。

 今の原災指針は、原発から半径5キロ圏の住民は事故時に即時避難する一方、半径5~30キロ圏は被ばくを避けるため、自宅などにとどまる屋内退避を原則としている。

 しかし今回の地震では、北陸電力志賀原発が立地する石川県志賀町や隣接する輪島市などで多くの住宅が被災し、屋内で安全に過ごせない状態となっている。

 東京電力柏崎刈羽原発が立地し、人口の約8割が5~30キロ圏で暮らす柏崎市でも、2007年の中越沖地震では住宅の全半壊が約5700棟に上った。

 屋内退避を巡る有効性の問題は以前から指摘されてきたことだ。指針見直しへの着手は当然で、むしろ遅いといえる。

 記者会見で、花角英世知事は「(住宅損壊がなくても)絶対にとどまりなさいというのは不合理という議論はずっとある」と述べ、広い視点の議論に期待した。

 気がかりなのは、規制委の山中伸介委員長が見直しの方向性を「屋内退避のタイミングや期間が重要な論点になる」と示した点だ。

 屋内退避の重要性自体は維持するとみられる。ただ、それだけだと地震などが重なる複合災害の場合、どこまで有効なのか疑問がある。状況に応じた退避方法を柔軟に提示する必要がある。

 今回の津波警報を受けて、高台の施設に避難した柏崎市の住民は「津波が迫る中で建物にとどまるか、被ばくを覚悟で移動するか、究極の選択を迫られることがあり得る」と予測した。

 新指針がまとまり次第、県など各自治体はこれに対応した避難計画を作ることになる。

 津波の恐れがあれば海上避難は不可能だ。地震に伴う避難道路の崩壊や大雪時の道路渋滞も想定しなければならないだろう。

 複合災害だと、屋内避難者に安定ヨウ素剤を緊急配布することにも不安が残る。山積する課題に向き合って対処してほしい。

 斎藤健経済産業相は地震後、規制委が昨年末に事実上の運転禁止命令を解除した柏崎刈羽原発について「地元の理解を得ながら再稼働を進めていく」と述べた。指針を見直す前に、理解を得ることは難しいのではないか。

 県などは昨年、国に全額国費で避難道路を整備するよう要望したが、国がどう実現するかは見通せない。命を守る切実な問題だと肝に銘じて対処すべきだ。