政策実現には政治への信頼回復が欠かせない。首相は幅広い課題に責任を持って取り組むというが、指導力を発揮できるのか。

 国会は30日、衆参両院で本会議を開き、岸田文雄首相の施政方針演説など政府4演説を行った。

 今国会は召集後、自民党派閥の裏金事件を巡る集中審議で論戦が始まるなど、政治改革が最大の論点になっている。

 演説で首相は、裏金事件で政治への信頼が揺らいだとして陳謝し、党の政治刷新本部が策定する改革を必ず実行すると表明した。

 各党との協議を経て、政治資金規正法改正など法整備を進めることにも言及した。

 首相は、信頼回復を果たして政治を安定させ、その上で重要政策を実行するというが、信頼を取り戻すことは容易ではない。

 金のかかる政治システムや、党内の順法精神を改めなければ、同じことが繰り返されかねない。抜本的な改革が不可欠だ。

 演説全体では、経済の再生が政権最大の使命だと強調する場面が目立った。「賃上げ」の言葉を多用し、物価高を上回る所得の実現に決意を示した。

 政府による「公的賃上げ」を行うとして医療や福祉、公共サービス分野での賃上げに意欲を見せ、中小企業やパート、非正規雇用への波及や、賃上げを視野に入れた法案提出を強調した。

 6月に行う所得税・住民税減税で可処分所得を下支えし、賃金上昇が当たり前という意識を社会全体に定着させると訴えた。

 賃上げ実現に向けて、広く機運を高めることは大事だ。

 子ども・子育て政策は歳出改革と賃上げで実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を構築すると述べた。実質的な国民負担を生じさせないというが、賃上げが実現しない場合、財源はどうするのか。

 能登半島地震に関しては、首相をトップとした復旧・復興支援本部を新設するとし、被災者の帰還と被災地の再生まで責任を持って取り組むと語った。

 長期的な視点に立ち、被災地の復興を実現していかねばならない。住民本位の姿勢で、丁寧に考えてもらいたい。

 首相は、党総裁任期中の憲法改正実現にも意欲を示した。総裁選の再選を見据え、保守層を意識した形だが、内閣支持率が低迷する中では実現困難との見方が強い。

 外交では、日米関係を深化させ、新興・途上国との連携を深める考えを示した。

 北朝鮮の拉致問題を巡っては、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記との首脳会談実現へ、首相直轄のハイレベルでの協議を進めるとした。

 拉致被害者の親世代が高齢となり、時間的な制約があることを胸に留め、首相は解決に向けて自ら動かねばならない。