支給対象を線引きすることで被災者が分断されれば、今後の復興に支障を来す懸念がある。政府には、場当たり的ではない制度設計を求めたい。

 政府は、能登半島地震からの生活再建を支援するため、高齢者世帯などに最大600万円を支給する方針を決めた。

 住宅の被害状況などに応じ、最大300万円を支給する現行の被災者生活再建支援法に基づく支援金のほかに、新たな交付金制度を設け、最大300万円を上乗せして支給できるようにする。

 被害が大きく高齢化も進む地域の復興に向けた追加支援とするものだ。住宅の再建費、家財道具の購入費に充てられる。

 石川県が事業主体となり、国が地方交付税で手厚く補助する。

 気になるのは、半壊以上の住宅被害を受けた65歳以上の高齢者や障害者のいる世帯を対象としたことだ。地域も輪島市や珠洲市など石川県の6市町に限定している。

 岸田文雄首相は5日の衆院予算委員会で、能登地域は高齢化率が高く、半島という地理的特性があるとして「他の地域と違う実情、特徴が存在する」と述べた。

 しかし、若い被災者や他の地域にも金銭的な支援が必要な人はいる。対象から外れた世代が流出する事態が懸念される。

 交付金制度の対象とならない若者や子育て世代向けには、住宅ローンの金利負担助成などを検討するというが、「将来の町を守ってくれる子育て世帯への支援も必要ではないか」とする被災者の指摘は理解できる。

 石川県では対象6市町以外の地域でも液状化被害があった内灘町をはじめ深刻な住宅被害が出ている。同じく被害を受けた本県や富山県の被災者との公平性にも疑問が生じる。

 政府は世代や地域によって分断を招かないような支援の仕組みを検討すべきだ。

 野党4党は先月、被災者生活再建支援法改正案を衆院に共同提出した。支援額を最大600万円に倍増する内容だ。

 新たな交付金制度は「物価高を踏まえた支援をすべきだという野党の指摘はもっともだ」と考えた首相が指示し、練られた。

 政府内では、東日本大震災など過去の災害支援との公平性の観点で慎重論が大勢だったという。

 支援法の財源は、国と都道府県が折半するため増額すれば自治体の負担も増える。政府の一存では決めにくい面もあるだろう。

 交付金制度について政府高官は「今回限りの対応だ」とし、付け焼き刃の印象は拭えない。

 国内では首都直下地震、南海トラフ巨大地震などの発生が想定されている。将来も見据え、制度設計をきちんと考えていくべきだ。