国民の理解を得ないまま、大きな政策転換を推し進めた印象が否めない。福島原発事故の反省を踏まえて軸足を置くべきは、再生可能エネルギーの技術開発と普及であるはずだ。
国の中長期的なエネルギー政策指針「エネルギー基本計画」の改定案が閣議決定された。
大きな特徴は、原発を最大限活用する政策へ回帰したことだ。
2011年3月の東京電力福島第1原発事故の反省からこれまで記してきた「可能な限り原発依存度を低減する」との表現を削除し、原発は再生可能エネルギーとともに最大限活用すると明記した。
40年度の発電量全体に占める原発の割合は2割程度とした。実現には東電柏崎刈羽原発を含め30基を超える既存原発のほぼ全ての再稼働が必要となる。
問題は計画の策定作業が福島原発事故の教訓や被災地の現実から目をそらしたかのように進み、国民の理解を欠いていることだ。
基本計画案に対するパブリックコメント(意見公募)には原発回帰に反対する意見が多く寄せられたが、原発の最大限活用の文言は変わらず、当初案通りとなった。
計画を検討した有識者会議には原発推進派が多く、大きな論争もないまま終わった経緯もある。
自民党総裁選で一時「原発ゼロ」に言及した石破茂首相は先日の国会で「安全が最大限に確認された原発の稼働を考えていかなければならない」と答弁した。方針転換の理由は詳細に語らなかった。
政府が原発回帰の理由として挙げるのは、デジタル化による電力需要の増加や脱炭素化の推進だ。
しかし需要増には再エネや省エネで十分カバーできるとの研究者の指摘もある。
原発には甚大な事故のリスクがある。放射性廃棄物の処分問題も解決していない。福島原発事故から間もなく14年となるが、今なお人が住めないエリアが広がり、廃炉計画は遅々として進まない。
基本計画では、23年度に22・9%だった再エネの割合を40年度に4~5割程度に引き上げるとした。次世代太陽電池や洋上風力発電などの普及を目指す。
再エネの切り札とされる洋上風力は資材費の高騰や、脱炭素化に後ろ向きなトランプ米政権の開発制限指示などで苦境にあるが、コスト削減など研究を重ね、普及を進めたい。
資源が限られ、原発事故を経験した日本にとって再エネが最重要な手段であることは間違いない。政府はより強力に推進すべきだ。
基本計画が決定したことで今後、政府が柏崎刈羽原発の再稼働に向けて本県への働きかけを強める可能性がある。
花角英世知事や県議会の判断が当面の焦点となるが、原発立地県の住民として私たちもあらゆる角度から是非を考えていきたい。