片山善博氏
片山善博氏

 政府が2024年3月21日に新潟県に東京電力柏崎刈羽原発新潟県の柏崎市、刈羽村にある原子力発電所で、東京電力が運営する。1号機から7号機まで七つの原子炉がある。最も古い1号機は、1985年に営業運転を始めた。総出力は世界最大級の約821万キロワット。発電された電気は関東方面に送られる。2012年3月に6号機が停止してから、全ての原子炉の停止状態が続いている。東電が原発を再稼働させるには、原子力規制委員会の審査を通る必要がある。7号機は2020年に全ての審査に「合格」した。6、7号機の再稼働東京電力福島第1原発事故を受け、国は原発の新規制基準をつくり、原子力規制委員会が原発の重大事故対策などを審査する。基準に適合していれば合格証に当たる審査書を決定し、再稼働の条件が整う。法律上の根拠はないが、地元の自治体の同意も再稼働に必要とされる。新潟県、柏崎市、刈羽村は県と立地2市村が「同意」する地元の範囲だとしている。同意新規制基準に合格した原発の再稼働は、政府の判断だけでなく、電力会社との間に事故時の通報義務や施設変更の事前了解などを定めた安全協定を結ぶ立地自治体の同意を得ることが事実上の条件となっている。「同意」の意志を表明できる自治体は、原発が所在する道県と市町村に限るのが通例。日本原子力発電東海第2原発(茨城県東海村)を巡っては、同意の権限は県と村だけでなく、住民避難計画を策定する30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)内の水戸など5市も対象に加わった。するよう要請してから、1年がたった。政府は働きかけを強めるが、花角英世知事は県民の気持ちが固まっていないとして判断を保留したままだ。柏崎刈羽原発が抱える課題は解消されたといえず、再稼働論議の終着点はまだ見えない。国益と県益が一致しない問題に地方はどう向き合えばいいのか。意思決定プロセスは。元鳥取県知事で元総務相の片山善博氏に聞いた。(報道部・長野清隆)

◆電源復旧、がれき撤去…花角知事は「東電に確認すべき」

 国策だから受け入れなければいけない、ということはない。いったん原発で過酷事故が起きれば、被害を受けるのは地元の人なんだから。東京電力福島第1原発事故2011年3月11日に発生した東日本大震災の地震と津波で、東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の6基のうち1~5号機で全交流電源が喪失し、1~3号機で炉心溶融(メルトダウン)が起きた。1、3、4号機は水素爆発し、大量の放射性物質が放出された。を見れば、よく分かるはずだ。

 私は福島事故時に総務相だったが、東電はひどかった。全電源喪失し、炉心を冷やせずにメルトダウンした。予備電源は水没し、建屋が水素爆発してもがれきの撤去もできなかった。

 今、全電源喪失してもリカバリー(復旧)できるのか、注水できるのか、がれきを撤去できるのか、花角英世知事は一つ一つ確認した方がいい。私が知事ならそうする。

◆国から不当な圧力あれば「情報公開を」

 地方が言うことを聞かないとき、国は嫌がらせをしてくることもある。私が鳥取県知事の時、国の方針に従わなかったら、ある省の事務次官から電話が来て、「鳥取県さんとの付き合い方を考える」と言う。「補助金を絞るということですか」と尋ねると、「そう受け取ってもらって結構」と言った。

 私は「それでは記者会見で今の話を県民に公表します」と伝えた。すると「なかったことにしてほしい」と慌てて撤回した。不当な圧力があれば、情報公開すればいい。

◆信問うことを「曖昧にしてはいけない」

 国が原発再稼働を進めるのにも理屈がある。首都圏の電力供給体制の強化やカーボンニュートラル達成などは正論だ。

 だからといって新潟県民は少々不安でも我慢して、というのは論理が飛躍しすぎ。国は新潟県に不安なことを具体的に挙げてもらい、全て解消するという姿勢を取るべきだ。

 花角知事もつらいだろう。しかし知事になると選択を迫られる。選択をすれば異論、反論、批判は必ず出る。いつまでもどっちつかずでは無責任だ。

 「信を問う」のはいつ、どういう方法かを曖昧なままにするのはいけない。逃げ口上に聞こえる。

 知事をやって実感した。いくら公正にやろうと思っても、生身の人間。結論がゆがんでいるかもしれない。大事なことは一人で判断しない方がいい。

◆最終判断は「県議会に委ねる手も」

 私は知事在任中...

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