
伊藤明彦さんが持ち歩いた録音機(奥)。被爆者の声を収録したテープのケースには几帳面な文字が並ぶ=長崎市の国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館
私財を投げ売って被爆者の「声」に耳を傾け続けた、ある男性の足跡に注目が集まっている。2009年に亡くなった伊藤明彦さん。1970年にラジオ記者をしていた長崎放送を退職した後、全国を訪ね歩いて千人以上の語りを録音した。
長く絶版状態だった伊藤さんの著書を復刊させる取り組みが進むほか、8月13日には伊藤さんをモデルにしたドラマ「八月の声を運ぶ男」がNHK総合で放送された。復刊に取り組む40代の編集者も、ドラマを企画した30代のプロデューサーも、被爆の記憶継承に強い使命感を持っていたわけではない。偶然、手にした伊藤さんの著書「未来からの遺言 ある被爆者体験の伝記」に衝撃を受け、突き動かされた。
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