伊藤明彦さんが持ち歩いた録音機(奥)。被爆者の声を収録したテープのケースには几帳面な文字が並ぶ=長崎市の国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館
 伊藤明彦さんが持ち歩いた録音機(奥)。被爆者の声を収録したテープのケースには几帳面な文字が並ぶ=長崎市の国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館
 伊藤明彦さん=2008年
 NHKドラマ「八月の声を運ぶ男」より。中央は阿部サダヲさんが演じる吉野啓二さん(仮名)をモデルにした登場人物
 NHKドラマ「八月の声を運ぶ男」より。伊藤明彦さんをモデルにした本木雅弘さん演じる主人公
 長崎放送記者時代の伊藤明彦さん(右)(NPO法人「被爆者の声」提供)
 編集者の西浩孝さん=2025年6月、長崎市で撮影
 松本太一さん=2025年7月、東京都渋谷区
 西浩孝さんが復刊した「未来からの遺言」(編集室水平線)

 私財を投げ売って被爆者の「声」に耳を傾け続けた、ある男性の足跡に注目が集まっている。2009年に亡くなった伊藤明彦さん。1970年にラジオ記者をしていた長崎放送を退職した後、全国を訪ね歩いて千人以上の語りを録音した。

 長く絶版状態だった伊藤さんの著書を復刊させる取り組みが進むほか、8月13日には伊藤さんをモデルにしたドラマ「八月の声を運ぶ男」がNHK総合で放送された。復刊に取り組む40代の編集者も、ドラマを企画した30代のプロデューサーも、被爆の記憶継承に強い使命感を持っていたわけではない。偶然、手にした伊藤さんの著書「未来からの遺言 ある被爆者体験の伝記」に衝撃を受け、突き動かされた。

 こ...

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