「オーディオブック」の録音用スタジオに入った上田渉。時々ここでラジオ番組の収録もする=2025年8月、東京都文京区のオトバンク(撮影・京極恒太)
 「オーディオブック」の録音用スタジオに入った上田渉。時々ここでラジオ番組の収録もする=2025年8月、東京都文京区のオトバンク(撮影・京極恒太)
 母方の祖父三浦正勝に抱かれる0歳頃の上田渉。祖父の視力は徐々に悪くなっていた
 録音用スタジオに入った上田渉=2025年8月、東京都文京区のオトバンク(撮影・京極恒太)
 若いスタッフと談笑する上田渉=2025年8月、東京都文京区のオトバンク(撮影・京極恒太)
 上田渉の年表
 タイトルカット

 「今、いいですか。これ聞いてみてください」。携帯音楽プレーヤーとイヤホンを手に声をかける。東京都心の日比谷公園で昼休み中の会社員がターゲットだ。聞こえてくるのは本を朗読する人の声。大学生だった上田渉(うえだ・わたる)が「どうですか。これがいくらなら欲しいですか」と質問を重ねる。2004年の秋、本の内容を音声で聞くことができるサービス「オーディオブック」は、まだ日本に根付いていなかった。

 応じる人は案外多かった。「老眼だからこういうのはいいね」「耳で聞くと楽」。評判も悪くない。200人に聞いた。「紙の本と同じかそれ以下の価格なら買う」という答えに手応えを感じた。

 それまでにも朗読を録音したカセ...

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