「額ありき」の防衛強化が先行し、その財源をかき集めるための性急な増税論が混乱を招いた。

 背景には、岸田文雄首相が短時間で決着しようと急ぎ過ぎたことがある。首相は先送りされた課題の解決に、十分な説明と時間をかけた議論を約束するべきだ。

 自民、公明両党の与党税制協議会は、防衛費増額の財源確保策として法人、所得、たばこの3税の増税方針を2023年度税制改正大綱に盛り込むことで合意した。

 大綱では増税の骨格を示すにとどめ、実施時期などを定めた法整備は24年に持ち越す。

 詳細が先送りされたのは、自民党内の反発が大きい。党内議論もなく1兆円強の増税規模を表明した首相に、最大派閥安倍派などの不満が噴出した。

 その基底には積極財政をうたう安倍派と、財政規律を重視する岸田派の潮流の違いがあるとはいえ、反発理由には一理ある。

 与党は10月に国家安全保障戦略など安保3文書改定の協議を開始したが、防衛費の姿が見えたのは今月に入ってからだ。

 首相は5日に、23年度から5年間の防衛費の大枠を約43兆円と提示した。27年度以降に毎年度1兆円強の税負担を求めると表明したのは8日のことだ。

 与党が16日の大綱決定を目指す中で時間に余裕はなく、「増税を短期間の議論で決定するのは無理」「手順がおかしい」といった不満が出たのも無理はない。

 税目の決め方も唐突で違和感が拭えない。所得税は、東日本大震災の復興特別所得税の税率を1%引き下げる一方、防衛費に充てる新たな付加税を創設し、税率1%とすることが示された。

 復興特別所得税の課税期間を延長し、新税と切り離したのは、被災地の理解を得るためだろう。

 しかし、復興目的で徴収を始めた税金を、全く違う政策目的に転用することについての説明はされていない。

 課税期間が延長され、最終的に増税となる。首相は、所得税は上げないとしていた自身の考えと、整合性をどう取るのか。

 党内に根強くある防衛費の国債発行を求める意見に対し、首相は「未来の世代に対する責任を取り得ない」と否定していた。

 一方で政府は、自衛隊施設の整備費の一部に建設国債を活用する新たな方針を示した。建設国債による借金は防衛費を対象外としており、従来方針の転換となる。

 首相の防衛予算に対する考え方と矛盾しないか。歳出拡大に歯止めが利かなくなる恐れもある。

 法人税の増税についても、負担のバランスなど民間の意見にも耳を傾ける必要がある。

 問題なのは、これまでの議論が国民不在で進んできたことだ。国民への丁寧な説明を欠いては防衛費増額に理解など得られまい。