何のために札幌市で五輪を目指すのか。その目的や理念を含めた開催の大義を示せなかった。
市は今後も招致を続けるのであれば、五輪の意義を具体的に示し、懐疑的な意見にも耳を傾け、住民の理解を得なければならない。
札幌市と日本オリンピック委員会(JOC)が、2030年冬季五輪・パラリンピックの招致を断念すると表明した。
東京大会の汚職・談合事件の影響などで開催支持率が伸び悩み、JOCが市に34年大会以降への招致先送りを打診した。
記者会見で、JOCの山下泰裕会長は「拙速に進めればスポーツの価値そのものに回復し難い傷を負わせる可能性がある」と話した。
札幌市の秋元克広市長は「(汚職・談合事件に対する)大きな不信感や、経費の問題があった」と述べ、招致に住民の理解が得られないと強調した。
市はJOCから先送りを打診される形をとって、招致に意欲を持ち続ける姿勢を示した。
だが34年大会の開催も絶望的となった。国際オリンピック委員会(IOC)が15日、30年と34年の開催地を同時決定することを正式決定したからだ。38年は決定時期や選考方法すら不透明だ。
1972年札幌、98年長野に続く日本で3度目の冬季五輪は見通しが立たなくなっている。
汚職・談合事件の反省を踏まえて、札幌市は大会運営を見直し、スポンサー選定を代理店1社に任せず共同企業体を活用し、組織委員会の理事数を東京大会の半数にすることなどを検討している。
クリーンな五輪イメージを取り戻すには、一度立ち止まって招致の在り方を考え直すことが必要なのではないか。
住民の意思を反映させるため、市民団体が住民投票条例の制定を直接請求する署名集めを始めたことに注目したい。
市民の理解が広がらない背景には、開催経費が増えることへの不安がある。東京大会の開催経費は総額約1兆4千億円で、招致段階の2倍近くに膨らんだ。
札幌大会は昨年11月の試算で当初より170億円増え、2970億~3170億円となった。物価高騰の影響でさらに膨らむかどうかが懸念される。
市民からは「少子高齢化などにお金をかける必要もある」との声を聞く。行政主導の大会ありきの姿勢を転換すべきだろう。
大会の本質はスポーツの純粋性であり、招致に向けては選手を交えてスポーツの価値を地域全体で話し合うことも重要だ。
五輪開催でインフラ整備や都市開発を進める手法は、もはや通用しない。人口減少下の地方財政に大きな将来負担をもたらす。
招致の成功には、住民と行政が対話しながら機運を盛り上げる活動を築き直すことが求められる。













