2001年9月11日の米国同時多発テロ後、世界各国が原子力施設を標的としたテロ対策の強化に動いた。一方、新潟県に立地する柏崎刈羽原発1985年に1号機が営業運転を開始した。全7基の出力合計は821・2万キロワットで世界最大級だが、2023年10月現在は全基停止中。東京電力は2013年に原子力規制委員会に6、7号機の審査を申請し、17年に合格した。その後、テロ対策上の重大な不備が相次いで発覚した。終了したはずだった安全対策工事が未完了だった問題も分かった。では核物質防護体制の不備東京電力柏崎刈羽原発で2020年9月20日、運転員が紛失した自身のIDカードの代わりに、他人のカードを使って身分を偽り、識別情報を書き換えて再登録し、原発の中枢である中央制御室に入室した。また20年3月以降、核物質防護機能が一部喪失し、複数箇所で外部からの不正な侵入を検知できない可能性があったことも判明した。原子力規制委員会は21年3月、「核物質防護上重大な事態になりうる状況にあった」として、安全上の重要度を4段階のうち最悪レベルと評価した。が発覚し、テロへの備えを重視していなかった東京電力の体質に県民は大きな衝撃を受けた。テロにとどまらず、ロシアによるウクライナ侵攻ではロシアが原発を占拠。新たな脅威への対応も迫られる。長期企画「誰のための原発か 新潟から問う」の今シリーズでは、国際的な課題となる原発のテロ対策について考える。(6回続きの6)=敬称略=

 「何なんだ、これは」。2021年に東京電力柏崎刈羽原発で相次いで発覚した、他人のIDカードによる不正入室と侵入検知設備の機能の一部喪失。原子力規制委員会原発推進を担う経済産業省から安全規制の役割を分離させ、原子力規制に関する業務を一元化した組織。東京電力福島第1原発事故を受けて発足した。国家行政組織法3条に基づき、人事や予算を独自に執行できて独立性が高い「三条委員会」として環境省の外局に位置付けられる。衆参両院の同意を得て首相が任命する委員長と委員4人で構成する。で当時委員長だった更田豊志(66)は、事務局の原子力規制庁福島第1原発事故後に発足した国の機関。原子力規制委員会の事務局を務める。前身は原子力安全・保安院などで、エネルギー政策を推進する資源エネルギー庁の機関だった。規制の審査、検査などの実務を担う。から2事案に関する報告を受けた。

 更田が特に衝撃を受けたのが、設備機能の一部喪失についてだった。すぐに対策ができたにもかかわらず、放置されていたことが判明した。

 2事案の発覚後、更田を含めた規制委の...

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